Destiny×Memories

Past.02 ~カミサマへの挑戦~


 あれからオレはソカルに連れられて、サントリアという名の近くの村へとやってきた。
 村には孤児院を兼ねた修道院があり、そこへ訪ねたオレたちを迎えてくれたのは年配の女性で、リーサと名乗った。


「待ってたよ、異世界の勇者!」


 彼女はオレを見るなり笑顔でそう言って、修道院の中に入れてくれた。


「てか、あの。勇者って?」

 オレはこの世界で何をさせられるのだろう。面倒なことじゃなければいいんだけど。
 そう思いながら先ほどの言葉の意味をリーサさんに尋ねる。

「昔、このローズラインを悪が支配しようとしたとき、異世界から来た勇者たちが助けてくれてね。
 それで、今回も同じように異世界から勇者が来てくれる、とアズール様から啓示があったのさ」

 アズール様、というのはこの世界の神様の名前らしい。
 神の啓示って……何か胡散臭いよな、と内心で思いながらもオレはとりあえず否定をする。

「えーと、リーサ……さん。オレ別に勇者とかそんな大層なもんじゃないッスよ?」

「何言ってんだい、異世界から来たならきっと勇者だよ! 異国の服を身に纏っているしね」

 いやこれはこの世界とやらに来たとき気づいたら着てただけで。
 そうツッコみたかったが人の夢を砕いちゃいけないと思い直し、オレは口を噤んだ。

「うーん……まあ仮にオレがその勇者だとして、オレは何すりゃいいんスか?」

「この世界は今、神々の戦いに巻き込まれようとしている」

 リーサさんの代わりにぽつりと呟いたのは、ずっと黙っていたソカルだった。

「か、神々の……戦い?」

 うわあ胡散臭い、と思いっきり顔をしかめながらも、オレは続きを促した。

「そう。【全能神】が【太陽神】を殺そうとしているんだ」

「……へえー」

「あんた、そのカオだと信じてないね?」

 しかしあんまりにも怪訝そうな表情をしていたからか、リーサさんに指摘される。

「いや、だってさ、カミサマなんて普通いないだろ……」

「アンタの世界には神信仰はないのかい?」

 オレの言葉に、リーサさんが呆れたような声で尋ねてきた。

「……国によってはあるッス」

 日本にもあるといえばあるけれど……オレは無宗教というか、カミサマなんて信じてない。

(いつだって、助けてくれやしないから)

「まあとにかく、あんたは神々の戦いを止めなきゃいけないんだ」

「……それって結構大変じゃないスか?」

 オレが言うと、ソカルとリーサさんが同時に頷いた。

「そりゃ、神を相手にするんだから」

 オレに死ねと言うのかこの死神はっ!
 ちょっと腹が立ったものの、とりあえず話を聞くことに専念する。

「……ってかその、全能神? と太陽神? が殺し合ったらどうなんの?」

「まあ殺し合いはしないとは思うけど。【全能神】が一方的に【太陽神】の命狙ってるだけだから。
 ただ、【全能神】が【太陽神】に手を出したら【太陽神】の守護者たちが黙っていないはずだ。そうなったらこのローズライン全土を巻き込んだ『神戦争』が起こる。
 それでもし、【太陽神】が死んだら……」

「し、死んだら……?」

「……ローズラインから、太陽が消える」

 あれ、なんだっけ。日本神話の……天の岩戸伝説。
 ソカルの後を継いで言い放ったリーサさんの言葉に、オレは祖国の神話を思い出す。
 あれは死んだんじゃなくて引きこもっただけだけど。
 他のカミサマが気を引いて外に連れ出したから世界に光が戻ったんだけど。

「太陽が……死んだら、もう戻らないよな……。世界は闇に包まれたまま、だよな……」

「そうなるね」

 オレの呟きに、ソカルが頷く。
 ……それって、かなりヤバいんじゃないか?

「……いや、けどさ。それでオレに何を求めてるわけ?
 オレは勇者とか呼ばれるほど強かないし、特別な力なんてないし」

 当然だ、ついさっきまで普通の高校生だったんだし。
 ……そうだ、藍璃アイリ。藍璃はどうしているだろうか。

「特別な力ならあるじゃないか」

 しかしそんなオレに、リーサさんが微笑みながら話しかける。

「そこの彼、人間じゃないだろ? そしてあんたは普通の人間で異世界から来た。
 条件は、十分揃ってるよ」

「……? 何の条件スか?」

 首を傾げたオレの疑問に、当の死神が答えてくれる。

「契約……このローズラインに古くから伝わる伝承。
 異世界から来た“召喚者”と、この世界に住む“契約者”。
 二人が契約することで、二人は“双騎士ナイト”と呼ばれる存在となる」

「その、条件に……オレとお前が当てはまってるって?」

 ソカルはただ静かに頷いた。
 ……正直、これは夢なんじゃないかと今でも真剣に思っている。今もオレは学校の屋上で寝ていて、きっとその内藍璃が……。

「ヒア」

 不意に、名前を呼ばれる。
 俯いていた顔を上げると、手を差し伸べているソカルがいた。
 ダメだ、その手を握りかえしてしまうと、これを現実だと認めなくちゃならなくなる。
 そんなオレの思考とは別に、この手はソカルの手を握り返していた。

 +++

 ――我、ローズラインの死神が契約せしは“Blaze”の名を持つ者。神に粛清を齎す者……――

 急に暗くなった視界で、ソカルの声が響く。ふと後ろを振り向くと、彼が立っていた。

「ヒア。君は僕と共に神に粛清を与える。その代価として、君は君の『過去』を知ることができる。
 ……それが、僕と君の契約だ」

 ソカルの痛みを堪えたような声を聞きながら、オレの意識は落ちていく。


 過去。オレの、『過去』……。
 脳裏をよぎるのは、燃え盛る城。
 あの意味を、あの夢を、知ることができるのか。

 少年は、神へ挑む。


(きみへ。痛いだけのキオクなんて、追い求めないで)


「……ごめんね、××××……」

 痛みを堪えたようなソカルの声には、気付かずに。


 Past.02 Fin.

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