Destiny×Memories

Past.06 ~君を傷つける過去~


「ヒアってさあ、弱いよね」

 猫耳娘の直球が、オレの心にグサリと刺さった。

 事の発端は小一時間前。ドゥーアの街を出たオレたちは、草原で魔物を倒していた。
 オレやリブラ以外のみんなは何やら戦い慣れていて、オレは完全に足手まとい状態だった。
 そして、冒頭のナヅキの発言である。


「ソカル、アタシたちよりアンタのパートナーのが足手まといなんじゃない?」

 ナヅキの言葉に、オレはぐっと黙る。
 やめろよ……結構傷つくんだぞ。

「何? 僕のパートナーに文句あるの?」

 売り言葉に買い言葉。まさに一触即発という雰囲気な二人に、オレとフィリは情けないことにおろおろとする。

「あ、そう言えば」

 空気を読まない声が響いた。リブラだ。みんなが一斉に彼女を見やる。

「ヒアさんの真名まなは何ですか?」

「まな……って、何?」

 そんな彼女が言ったのは、聞いたことのない言葉だった。オレが首を傾げると、リブラは説明してくれた。

「真名、です。“双騎士ナイト”なら契約時に真名で契約したと思うのですが……」

「ああ……。アタシの場合だと“Prism”なんだけど、アンタは?」

 ナヅキの例に、オレはソカルと契約した時に言われた言葉を思い出す。そう言えば、そんな感じの単語を言っていたような気がする。
 あれは他人に言って良いものなのだろうか。
 一応ソカルに目配せをすると、彼は嫌そうな顔のまま黙っていた。

「……確か……そう、“Blaze”、だったはず」

 黙ってるってことは言っても大丈夫なんだろう、と勝手に結論づけて、オレは答える。

「“Blaze”……“焔”、ですか」

 リブラの言葉に、オレは皮肉だなあと笑う。
 オレは焔なんて……嫌いなのに。

「じゃあ、もしかしたらアーくんは魔術師の素質があるのかもですね!」

 フィリがわくわくした声で告げる。
 まあ、適材適所とは言うけどさ。

「魔法なんて使ったことないぞ?」

「大丈夫ですよ、僕はこれでも魔術師の端くれ! 教えます、魔法!」

 楽しそうだな、フィリ。
 内心呆れながら、オレは魔法の特訓とやらを受けることにした。

 +++

「まずは魔法陣を発動させるです」

 ま、魔法陣って、何。と思っていると、フィリが詳しい説明をしてくれた。

「自分が使いたい魔法をイメージするですよ、単純に魔法を使うというのをイメージするだけでも大丈夫です」

 よくわかるようなわからないようなその説明を受け、とりあえず目を瞑って実践してみるオレ。
 えっと、イメージ、イメージ……。

「素質があれば大抵はそれで簡単な魔法が使えるです。上級魔法はまた別ですが」

 珍しくよく喋るフィリの説明を流しながら、オレはなおもイメージしようとする。
 簡単な魔法ってこう、あんまり派手じゃないやつだよな。ゲームの最初で覚えるような。
 ふと、ふわりと足元が光る感覚に気づく。

「あれは……魔法、陣?」

「見たことない魔法陣です……。……アーくん、心に浮かんだ言葉を言ってください! それが呪文です!」

 ナヅキとフィリの言葉に、魔法陣とやらを発動できたことを知る。フィリの指示に従い、オレは心に浮かんだ言葉を発する。

 ……ソカルが、辛そうな顔をしていたのには、気づかないまま。

「……――“焔よ,踊れ! 『テア』”!」

 瞬間、ボッという物が燃える音に、ハッとする。見ると、目の前にあった木が、燃え、て。

「……あ……」


 ――お逃げください、××!――

緋灯ひあ


「あ……あ、」


 ――城が……燃えて、――

『緋灯』


「ああ、あ……」


 ――貴方の為に死ねるなら、私は……――

『大丈夫よ、緋灯』


「……っあ、あ……」


 ――貴方のせいではありませんから……どうか……――

『火は、あなたを守るわ、緋灯』


 ――ご自分を、責めないでください――

『だから、自分を責めないでね』



「っあぁぁぁぁぁぁぁああぁぁッ!!」

 +++

 突如叫びだしたヒアに、僕は失敗した、と焦る。本来なら、彼が魔術を習得しようとしてる時点で止めるべきだったのだ。それを、僕は……。

「ヒア!!」

 彼の元へ駆け寄る。とにかく、反省も後悔も後だ。

「ひ、が、みんな、もえて、」

 錯乱状態のヒアを、精一杯抱き締める。
 怖がらなくていい、どうか、何も思い出さないで。

「大丈夫、大丈夫、ヒア。大丈夫だよ」

 豹変した事態におろおろとしている魔術師に、僕は指示を出す。猫耳やリブラはこの際無視だ。

「炎を消して! 早く!!」

「は、はいです! ――“水よ,飲み込め! 『アクア』”!!」

 水属性の簡易魔法が、ヒアが出した炎を飲み込む。やがて炎は消え、辺りにはヒアのすすり泣く声だけが響いた。

「ヒア、もう大丈夫だよ」

「みんな……もえるん、だ。みんな、」

 落ち着かせようと声をかけても、ヒアはまだ過去の幻影を見ているようで。
 今のヒアに、その過去を全て知られてしまうのは得策ではない。きっと、また、壊れてしまう。

「ごめんね、ヒア……」

 そっと、その意識を強制的に閉ざす。力無く倒れる彼の身体を、出来るだけ優しく地面に横たわらせた。

「一体……なんだったの……?」

 呆然としている猫耳たちに視線を移す。だけど何も言えなくて、僕は冷たいヒアの手をぎゅっと握った。


 いつだって、どんな過去だって。
 君を傷つけるばかりなんだ。


(……きみへ。そのキオクは、本当に必要?)



 Past.06 Fin.
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