Destiny×Memories

Past.08 ~君のチカラ~


 ――だいじょうぶ、だよ――


 夢の中で聞いたあの声が脳裏に響いたと思った、その瞬間。アイレスの炎の魔法は消え去っていた。

「……ッ!! 無効化魔法だと……!? いつの間に……!!」

 驚くアイレスには先ほどの声は聞こえなかったらしい。

「一体……何が……」

 呆然とするオレたち。ソカルが心配そうにオレを見た。

「ヒア、大丈夫!? ……ケガはない?」

「あ、ああ。なんとか……」

 そんなオレたちを見ていたアイレスが、再び呪文を唱えようとする。

「さっきのはどうせまぐれだ!! 今度こそ当ててやるぜ!
 ――“天空を燃やす灼熱よ! 我が敵を薙ぎ払え!!”」

 手をかざすアイレスを見て、オレは今度こそダメか、と硬直した。
 【戦神いくさがみ】と呼ばれた彼の剣には、炎が集まっている。


 ――ちからが、ほしい?――


 また、声が聞こえた。守るチカラを。戦うチカラを。
 オレが、ここにある意味を。


 ――わかった……。きみのカラダ、かりるよ――


 その瞬間、身体に何かが入ってくる感覚が、した。


「くらえッ!! “『スカイフレイム』”!!」

 アイレスの炎が、オレたちを襲う。やばい、と思った瞬間、オレの身体が勝手に動いた。

『――“《ダークエンド》”!!』

 口から勝手に言葉が出て、炎を無効化した。行き場を失った熱だけがその場に残り、じわりと熱い。
 え、何、何が……!?

「ヒア……!?」

 ソカルがひどく驚いたような顔をしている。もちろん、ナヅキたちも、アイレスも。

「お前……何者だ?」

 飄々とした表情を消してオレを睨みつけるカミサマに、オレは辟易する。ふと手に違和感を覚えて見てみると、いつの間にかオレは変な形の剣を握っていた。

「な……なんだ、これ……」

 見覚えのないその剣を見て、ソカルが呟く。

「コピシュ……?」

 それはこの曲がった剣の名前なんだろうか。
 何でお前が知ってるんだ、とかいろいろ考えていたら、また身体が勝手に動き出した。

『――“暗黒の世界,罪人の償い……。《ダークネス・アトーンメント》”!!』

 暗い魔法を宿した剣で、アイレスに切りかかる。

「う……ッああああッ!!」

 攻撃はアイレスに届いて、彼は悲鳴を上げて跪いた。

「くそ……ッ!! まだ覚醒して間もない“双騎士ナイト”がこんなに強いはずはない……!! なんで……!!」

 ぶつぶつ呟くアイレスに、オレは複雑な思いになる。
 だって、このチカラはオレのものじゃない。きっと……あの深い海のような空間で聞いた、あの声の主のものだから。


「……【戦神】。あれほど勝手な行動は慎むよう言ったはずですが?」


 そんな思考の渦に沈むオレの前方から、不意にまた知らない声が聞こえた。

「……【識神しきがみ】のお出ましかよ……」

 アイレスが苦虫を潰したような顔でそう言った。【識神】……ってことは、またカミサマなのだろうか……?

「はじめまして、“双騎士”諸君。私は【識神】ミネル。
 この馬鹿を回収に来ただけですので、そんなに警戒しなくて結構ですよ」

 アイレスの後ろから姿を現した茶髪の男はそう名乗り、武器を構えたままだったオレたちを鼻で笑った。

「けど……あんたもそいつの仲間なんでしょ? だったら」

「先ほども言ったでしょう、私はこの馬鹿を回収しに来ただけだと。
 今あなた方と争う気はありませんよ」

 ナヅキの言葉に、ミネルはため息をつく。馬鹿呼ばわりされたアイレスは不満そうな顔だ。

「……最も、次にお会いするときは全力でお相手をさせていただきますが。
 それでは、失礼いたします。“双騎士”諸君……そして……――」

 最後の方の言葉は聞き取れなかった。二人の【神】の姿は最初からそこにいなかったかのように消えてしまったから。

「……に、逃げられたー……」

 はあ、と脱力するナヅキに、ソカルが首を振る。

「見逃してもらった、と言った方が正しいね。
 実際、今の僕らでは神と同等に戦うことすらできない」

 その言葉に、オレは思わずギュッと拳を握った。
 ……あれ?

「あ……身体、動く……」

 いつの間にかあの声の主は消えたようだ。
 自由を取り戻した体に、心底ほっとする。助かったとはいえ、勝手に体を操られていい気はしない。

「そうだヒア、さっきのあれは一体……!」

 思い出したかのようにソカルが問う。みんなもオレをじっと見る。そう、言われても……。

「オレもよくわからないし……」

 困ったように言うと、みんなも困惑した表情をした。
 本当に……なんだったんだ? あいつ……。

 ――ああ、また、名前を聞きそびれた。


  +++


「【神】が動き出したようだぜ」


 白で覆われた建物の中。金髪の青年が、淡々と報告をする。
 ……【神殿】と呼ばれるその建物の中で、最も厳かな雰囲気が漂うその場所に、“彼ら”は集まっていた。

「【太陽神】を殺そうと、奴らも必死なわけか」

 彼より薄い金髪の青年が、深くため息をついた。

「どうしますか? 今の彼らに【神】と対等に戦う術はないはずです」

 あるとしたら……という言葉を飲み込んで、白髪が首をかしげる。

「……あの二人に合流させよう。ちょうど今、近くにいるはずだから」

 水色の髪の少年が、そっと笑って“彼ら”に指示を出した。

「【太陽神】も……《彼》も、殺させない」


 それは、まるで深い海。


(……あなたへ。どうか、すべてを抱え込まないで)


 Past.08 Fin.

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