Destiny×Memories

Past.13 ~ねむるきみ~


 ふいに意識が浮上する。

 ぐるり、と頭を回せば、緊迫した空気に包まれた仲間たち……そして、黒翼に殴りかかってるソカルと、それを受け止めている黒翼の姿が目に映った。


「……なにやってんだ、お前ら……」


 我ながら第一声がそれかよ、とは思う。
 しかし黒翼を睨んでいたはずのソカルが、何事もなかったかのように心配そうな表情を浮かべながらオレの元へ駆けてきたから、なんだかもうどうでもよくなってしまった。


「ヒア! 大丈夫!?」

「おー、なんとかな」

 軽く頷けば、ソカルは安心したように息を吐いた。
 ナヅキたちはソカルの豹変っぷりに戸惑いを隠せないようで、微妙そうな顔をしながらオレに近づいた。

「アーくん、おはようです」

「お、おう」

 困ったような笑みでズレた挨拶をするフィリの頭を撫でて、立ち上がる。……身体の節々が痛むが、まあ大丈夫だろう。

「……また名前、聞けなかったな……」

「名前、ですか?」

 ぽつりと呟けば、傍にいたリブラに聞かれたようで彼女は首を傾げた。

「ああ、いや、うん。こっちの話」

 どうせ言っても信じてもらえないだろう、水中の空間にいる彼のことなんか。
 ……そう言えば彼に出逢ってから、あの炎の夢を見ていないということに気付いた。


「とりあえず、ヒアも気づいたことだし行くか。街まであと少しだからなー」


 オレがそんなことを考えていると、イビアさんがそう言って歩き出し、黒翼もその後を追うように足を踏み出す。オレたちはきょとんと首を傾げた。

「何ぼんやりしてんだよ、置いてくぜ?」

 にやり、と笑うイビアさんに、ナヅキが声を上げる。

「お、置いてくって……それって、」

「あれ、言わなかったっけか? オレたちもお前らの旅に同行するから」

『……えっ!?』

 オレンジ髪の青年が放った突然の発言に、オレたちは当然驚く。
 ああほら、ソカルがすごく嫌そうな顔をしてるじゃんか!!

「そんな嫌そうな顔するなよ、ソカル。……そうだな、じゃあこう言えば納得するか?」

「俺達も、“双騎士ナイト”だ」

 イビアさんの言葉を継いで、黒翼が言い放った。
 ……っていうか、えっ!?

「イビアさんたちも“双騎士”って……」


『……ええーーーーッ!?』


 イビアさんたちとソカルを除いたオレたちのワンテンポずれた驚愕の声が、森の出口に響いた。

 +++

 その後、街を目指しながらオレたちはイビアさんたちの話に耳を傾けた。
 イビアさんたちは言わばオレたちの先輩に当たる存在だと言うこと、イビアさんたちが体験した旅のことなどを、彼らは話してくれた。


「先代の“双騎士”だって言うんなら、アンタたちが神様倒したらいいんじゃない」


 楽しげに聞きながら時々質問をしていたリブラとは違って、珍しく大人しく話を聞いていたナヅキが突然ぽつりと呟いた。
 ……どこかで聞いたことのあるセリフだな。

「そうしてやりたいは山々なんだけどな、オレたちはオレたちの役目があるわけで。ま、世代交代ってやつだな」

「役目、です?」

 イビアさんが笑って答えると、今度はフィリが首を傾げた。

「【太陽神】の守護と、お前ら現“双騎士”の……指導? とかだな」

「何で疑問系なんスか何で」

 オレがツッコむと、イビアさんは明るくからからと笑う。

「いや、本来なら自分たちで何とかするべき問題だからさ、強くなるのも含めて。
 お前らかなり恵まれてるぞー。オレらはリーダーはいても“双騎士”としての指導者はいなかったし」

 いや実に羨ましい、と笑顔の彼は言う。……微妙に棒読みなのはきっと気のせいだろう、多分。

「……なら放っておけば良かったじゃないか、僕らなんて」

「別にそれでもいいっちゃあいいんだけどな、そんなことしたらお前ら神どもに瞬殺されちまうだろ?」

 ソカルが投げやりにそう呟くと、しっかり聞こえていたらしいイビアさんが苦笑いで答えた。
 ……うん、最もすぎて言い返せないです。

「……それだけが理由じゃ、ないだろ」

 酷く冷めた目で、ソカルはイビアさんたちを睨んだ。

 何でソカルがそこまで彼らを嫌っているのかはオレにはわからない。
 もしかしたらオレが気を失ってる間に何かあったのかもしれない、と目覚めたときの状況を思い出してオレは考える。

 死神に睨まれてもなお、イビアさんは笑顔を崩さなかった。

「嫌だったらオレたちも無理についていきやしないさ。
 ただ、その場合さっきも言ったけどお前らはすぐに神どもに倒されちまうだろうけどなー」

 ははは、と相変わらずのんびりと笑うイビアさんに、黒翼が深くため息を吐いた。……苦労してるんだな、お前も……。

「いいじゃん、ソカル。強い人が一緒にいたらなんか心強いし、な?」

 苦笑しながらなんとかイビアさんたちをフォローすると、ソカルは何とも言えない表情でオレを見てきた。

「……ヒアが、そこまで言うのなら……」

「……お、おう」

 そんな顔されながら言われてもどう反応していいのかわからないんだけどなーと内心思いながら頷くと、イビアさんと黒翼さんが顔を見合わせてクスッと笑った。

「な、なんスか?」

 黒翼の表情が変わったのを初めて見たとかいろいろ思うことはあるけれど、ソカルの機嫌が最悪なので恐る恐る尋ねてみる。

「いやー、オレたちの知り合いに似てて、な」

 笑いながらイビアさんが黒翼に同意を求めれば、黒翼もこくりと頷いた。

 ……ソカルに似てるやつって……そんなやついるんだな……。

 そんな失礼なことを考えていると、ソカルに軽く叩かれた。痛いです……。

「とりあえず、話もまとまったことだし行くかー」

 そう言って再び歩き出したイビアさんと黒翼に、オレたちは顔を見合わせて、そして置いていかれないように小走りで彼らに着いていった。

 +++

「黒翼たちがあいつらに接触したってさ」


 白で覆われた建物……【神殿】の中。金髪の青年が水色の髪の少年に飄々と報告をする。

「そう……。ありがとう」

 ぎゅっと拳を握り締めてどこか哀しげに笑う少年は、その傍にあるベッドに横たわる別の少年を見つめる。

「……待ってるよ、ずっと、ずっと……。
 必ず……僕たちが必ず、【太陽神】も君も、守ってみせるから……。だから……」


 ねえ、はやく、目を覚まして……?


 ……それは《彼》の目覚めへと至る、……――



(……あなたへ。世界は誰にもやさしくないから)



 Past.13 Fin.
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