Destiny×Memories

Past.43 ~ユメを繋ぐヒト~


「……なるほど、ヒアくんがそんなことを……」


 翌朝。港町までもうすぐだから、と歩き出したオレたち。
 ふと先頭を歩く深雪先輩の声が耳に届き、思わずそちらをじっと見てしまった。
 隣を歩くソレイユ先輩から昨晩のことを聞いているようだ。黙っていてほしいと言われたことについては……まあ、さすがに喋っていないと思いたいけれど。

「……ヒア、何があったの?」

 怪訝そうな顔で、同じく深雪先輩の声が聞こえてしまったらしいソカルが尋ねてくる。

「いやー……たいしたことじゃないよ。眠れないから話し相手してもらっただけ」

「……そう」

 不満げな彼は、そう言って視線を外してしまった。
 苦笑いを浮かべつつ先輩たちに視線を戻せば、こちらを見ていた二人と目が合ってしまう。
 それに困っていれば、深雪先輩が優しく微笑んで、「ありがとうございます」と口を動かした。
 たぶん……夜先輩のことだろう。オレは軽く笑うことでそれに答えた。

 その夜先輩は、というと、最後尾で朝先輩にくっつかれながら歩いている。
 ……いや、語弊があった。「久々に動くから、うまく歩けなくて」と申し訳なさそうに言ってきた夜先輩の手を握る……というか腕を抱えて、朝先輩がリードしているような状況だ。
 ……しかしあの人、昨晩の戦闘では問題なく動けていなかったか?
 そんなオレの疑問は、魔物の出現と共に霧散していった。


「はあああ!」


 掛け声を出しながら、剣を一振り。目の前にいた巨大猫は悲鳴を上げながら後ずさる。
 しかし、すぐさまソカルが魔力を込めた鎌を魔物へと振り抜いた。

「よし、次!」

「油断しないでね!」

 意気込んで次の魔物に剣を向けたオレに、ソカルが苦笑いを浮かべながら忠告する。
 それに分かってるよ、と返してから、目の前にいる大きな口? を開けた動く植物に斬りかかった。
 何度か攻撃を受けたものの、ソカルのサポートもあり程なく撃破。
 ひと息吐いたオレは、仲間たちを探す。
 ちょうどナヅキとフィリも魔物を倒し終えたようで、二人でハイタッチしている姿が目に入った。
 離れた場所にいたリブラが、オレの怪我を見つけたのかこちらへ駆け寄ってくる。傍にディアナがいたことから、戦闘中は彼に守られていたのだろう。
 深雪先輩とソレイユ先輩、それに朝先輩と夜先輩は特に怪我もなく、オレたちに合流するため同じくこちらへ歩いてきていた。

「ヒアさんとソカルさんもお疲れ様でした。すぐに治療しますね」

「大丈夫だよ、これくらい」

 たいした怪我ではないので、治癒魔法の世話になるのが何だか申し訳なくなり遠慮するが、リブラは頬を膨らませてオレを見つめてきた。

「大丈夫じゃないです! 怪我を放置していると、悪化したり病気になったりもするんですよ!
 ……はい、終わりましたよ」

 と、ぷんぷん怒りながらもしっかりと治療をしてくれたリブラに、「あ、ありがと……」と苦笑いを浮かべてしまう。
 隣で一連の流れを見ていたソカルが、リブラは良いこと言うね、と言いたげにうんうんと頷いていた。

「ナヅキさんやフィリさんは大丈夫ですか?」

 リブラはそのまま、集まってきていたナヅキとフィリにも声をかけていく。元々世話焼きが好きな性格なんだな、とその様子を見ながら感心するオレのそばに、ソレイユ先輩がやって来た。

「よ、ヒア。だいぶ戦い慣れてきたな」

「あはは……さすがにここまでずっと戦っていれば嫌でも慣れるッスよ」

 先輩の言葉に苦笑いを返せば、そりゃそうか、と頭をわしゃわしゃと撫でられてしまった。
 隣でソカルがすごい顔で先輩を睨んでいるが……まあ、見なかったことにしよう。

「……夜くんは大丈夫ですか?」

 深雪先輩が、朝先輩に引っ付かれて……もとい、支えられている夜先輩に気遣わしげに声をかけた。
 おそらく、戦闘前まで今のように朝先輩に腕を引っ張られていたからだろう。

「大丈夫。特に問題ないよ」

「……うまく動けないっていうけど、さっきの戦闘でも普通に動けてなかった?」

 微笑みながら深雪先輩にそう返した夜先輩に、ナヅキが突っ込む。
 ……彼女のそういう遠慮のなさは時々見習いたい。

「ああ……うん。戦闘はね……簡単に言えば、そうだな……魔力でカバーしてるから。
 でも、それ以外でも魔力を使っていると疲れちゃうからね」

 夜先輩はずいぶん言葉を選んで答えたが、おそらく……昨夜の内緒話にまつわることなのだろう。
 何でもアリとかずるいわ、と言いながらもナヅキは納得したようで引き下がったが、彼の隣で朝先輩が不安そうな瞳をしている。
 深雪先輩も首を傾げているので、若干事情を知ってしまっている身としては、早く話してあげてほしいというか、なんというか。

「ま、夜も大丈夫って言ってるし……港町まであとちょっとだ。行こうぜ」

 オレが内心やきもきしていると、ソレイユ先輩がいつも通りの笑顔でみんなを促した。
 そうして歩き出した面々と共に、夜先輩がソレイユ先輩に「ありがと」と呟いて、朝先輩に引っ張られていく。
 それを見送りながら、やれやれ、と言いたげにため息を吐いたソレイユ先輩は、隣で一連の流れを見ていたオレの背を押したのだった。

 +++

 しばらく歩くと、潮の香りが風に乗って届いた。
 太陽はすでに傾きかけていて、午後の穏やかな光が心地よい……はずだった。

 最初に異変に気づいたのは、ソレイユ先輩だった。

「……港から天使の力を感じる!」

 先輩はそれだけ言い残して、様子を見てくる、と深雪先輩と共に走り出してしまった。
 残されたオレたち後輩組は、思わず一瞬顔を見合わせてしまう。

「……ディアナ、【神】のチカラは感じる?」

「……いや。おそらく天使族だけだろう」

 しかし夜先輩がディアナにそう確認を取り、わかった、と頷いてからオレたちに指示を出した。

「今のところは【神】はいない……けど、後からやって来る可能性はある。
 それに注意を払いながら、各自天使を撃破。怪我人は見つけ次第保護及び誘導。
 ……ディアナ、きみはリブラの護衛を頼むね。リブラは怪我人の治療をお願い」

 それにディアナとリブラ、そしてオレたちはそれぞれ了解の意を示して、街へと走り出す。

「……まあ、“あの子”がいるみたいだから大丈夫だと思うけど……限度があるだろうしね……」

 そんな夜先輩の呟きを耳にしたのは、オレとソカル、朝先輩だけのようで。
 意味を問おうと三人で首を傾げても、彼は何でもないよ、急ごう、と兄の手を引いて駆け出してしまった。

 ……何なんだ、相変わらず。

「……朝先輩が可哀想になってくるな……」

 なんだか何事も蚊帳の外に置かれてるように見えるけど、朝先輩は不満じゃないのだろうか……。
 思わず独り言ちたそれに、ソカルは曖昧な苦笑いを浮かべていた。


 そうしてたどり着いた港町は……案の定、天使たちに襲われていた。
 とは言え王都に近いからか、軍人らしき人たちや旅人らしき人たちが応戦しており、グラウミールの時の惨劇は免れそうだ。
 それに内心安堵してから、オレたちも加勢に、と再度走り出した、その時。

「っヒア、あそこ……!!」

 不意に相棒に名を呼ばれそちらを向けば、家屋の前で子どもを抱きしめた母親らしき人が天使に襲われかけていた。

「やめろっ!!」

 慌てて間に割って入って、天使の攻撃を剣で受け止める。

「今のうちに逃げてください!! 早く!!」

「あ……ありがとうございます……っ!!」

 オレがそう声をかけると、母親は子どもを抱きかかえて走り出した。
 駆けつけた軍人の女性がその母親と子どもを保護したのを見守ってから、オレは目の前の天使に集中する。
 
「貴様……そのチカラ……“双騎士ナイト”……?」

「……だったら何だよ」

 天使の問いかけに、オレは睨みつけることで答える。

「“双騎士”……最上級排除対象。【森神もりがみ】アルティ様のため、貴様を排除する」

「させると思ってるの?」

 淡々と言葉を放つ彼の背後から、ソカルが魔力を込めた鎌を振るう。
 意識が完成にオレへと向いていたその天使は、突然の攻撃を思いっきり受け、地面に倒れ伏す。

「背中、がら空きだったけど」

「ナイスソカル!」

 冷たい眼差しで倒れた男を見やるソカルに、オレは声をかける。正々堂々とはかけ離れた攻撃だが、仕方ない。
 とにかく他の天使も倒しに行こう、と一歩踏み出した……その時。

「逃がさない」

 その呪詛のような呟きとともに、空から光の剣が降ってきた。
 慌ててそれを避けると、先ほどまで倒れていた男がふらり、と立ち上がる。

「……まだやる気?」

「“双騎士”は……排除する。排除する。排除する……」

 壊れたテープのように同じ言葉を繰り返す天使に、思わずゾッとしてしまう。
 瞳に光はなく、その感情も見えない。
 これは……【愛神あいがみ】アーディの配下天使と同じ……?

「……っ!」

「ヒア!!」

 不意に、彼の剣がオレへと振るわれた。それを同じく剣で受け止め弾いて、急いで距離を取る。
 心配そうな顔で隣に並んだソカルに大丈夫、と返して、天使を睨んだ。
 天使の方も、戦闘音を聞きつけてか他の天使たちが加勢にやってきたようだ。

「……ちょっとヤバい、かな?」

「けど、みんなバラバラに散ってるし。ここは僕たちだけで切り抜けるしか……なさそうだよ」

 じわり、と嫌な汗が垂れたのを感じながら、オレは後ずさる。
 しかしソカルの言うとおり、仲間たちは周りにいないし呼びに行くにもどちらかが囮になるしかないだろう。

 ……そもそも、逃げられれば、の話だが。

 そんな絶体絶命なオレたちだったが……突然、上空から青年の声が響いた。


「助太刀するぞ!!」


 その声と共に空から剣を構えて降ってきたのは、薄茶色の髪を短く切り揃えた青年だった。

 落下の勢いのまま天使を一人貫いた彼は、軽やかに着地してくるりとオレたちの方を向いた。白銀のマントが動きに合わせて揺れる。

「怪我はないか? ……よし、大丈夫そうだな。
 話はあとだ、まずは天使たちを倒そう!」

 ポカンとするオレとソカルを置き去りに、彼はそのまま天使たちに突っ込んでいった。
 なかなか戦い慣れているその姿に、我に返ったオレも剣を握り直して駆け出す。

「ソカル! 援護頼むな!」

「うん、無茶はしないでね!」

 相棒の頼もしい返事に頷いて、オレは天使に斬りかかった。
 その攻撃は難なく防がれてしまったが、何とかそのまま青年の隣に着地した。

「コイツら結構強いけど、大丈夫か?」

「はい!」

 深雪先輩たちと同年代に見える彼に言葉を返し、でも、と続ける。
 
「多勢に無勢ッスけど、策はあるんスか?」

 その不躾とも言える発言に、青年は「もちろん」と笑った。
 ……まあ、オレも彼が妙に自信満々なので尋ねたのだが。

「魔法を使うから、お前にはちょっと時間稼ぎを頼めるかな?」

「……? わかったッス。なるべく早くお願いしますね!」

 青年はどうやら魔術師としての側面もあるらしい。一体どんな魔法かは見当もつかないが……嘘をついたり騙そうとしたり、ということはなさそうだ。

「……よし! 行くぞ!!」

 気合いを入れて、オレは再び天使たちに向かって走り出す。
 一人の天使が持つ剣とオレの剣が、高い音を立ててぶつかった。

「――“深淵よ,その業を以て彼の者を貫け! 『アビスドゥーイヒ』”!!」

 背後からソカルの詠唱が聞こえ、青年の元へ行こうとしていた天使たちを闇属性の魔法が貫いたのを確認して、オレは目の前の天使を斬り払う。

「――“虚ろなる幻影の空間よ,彼の者たちのユメを繋げ……『イリューゾニア』”!!」

 青年の声が呪文を紡ぎ、淡い光が天使たちを包み込んだ。
 すると、彼らはぴたりと動きを止め……やがて、一人、また一人と膝をついていった。

「……これ、は……?」

「幻術だよ。彼らに幻術……幻属性の魔法をかけたんだ。
 それより、トドメ頼めるか?」

 空を見上げ喪心する天使たち。今まで色々な属性の魔法を見てきたと思っていたが……幻術とは、なかなか便利そうな魔法だ。
 青年の頼みに、ソカルが胡乱げな顔を向けながら再度詠唱を始めた。

「――“晦冥なりし世界なれば,我がチカラよ刃となりて,彼の者たちの魂を喰らえ……どこまでも深く,深く……永久の眠りへ。
 『ソム・ペルペトゥーム=オブスキュア』”!!」

 その呪文と共に、空から無数の闇属性の魔法で編まれた剣が降り注ぎ、それらは一人残らず天使たちを貫いた。
 存在した証として赤い血の跡だけを遺し、彼らは光となって消えていく。
 それは、この窮地を切り抜けたことを示していた。

「……なんとか……なった……」

「だな。あー、ヒヤヒヤした! 二人とも、怪我はないか?」

 思いの外あっさりと倒せたことに呆然としつつ安堵していれば、青年からそう声をかけられた。
 それにソカルを見やると、大技を放ったからかどこか疲れた表情をしているが……特に怪我はなさそうだ。

「……はい、平気です。助けてくれてありがとうございます。……ええっと……?」

 そう言えば、彼の名前をまだ聞いていない。
 首を傾げれば、青年は「あ、名乗ってなかったな」と思い出したように頷いた。

「オレは……マユカ。……【ユメツナギ】マユカだ。
 よろしくな!」


 +++


 ヒアたちが天使の元へ駆け出したのを見送って、オレたちもそれぞれバラバラに散っていった。
 オレとお兄ちゃんも天使を倒しながら、先行した深雪とソレイユを探していた。


「……ねえ、夜。……僕に隠し事してるよね?」


 そんなときだった。不意にお兄ちゃんが不安げな声音でそう問いかけてきたのは。

「……どうしてそう思うの?」

 我ながら白々しい。それでもゆるく笑んで逆に尋ねれば、兄はオレの腕を掴んで顔を覗き込んできた。

「……僕はずっと夜の傍にいた。あの世界で、ずっと」

「だから、オレのことなら何でもわかるって言いたいの?」

 あの世界……オレたち・・・・の故郷、地球。
 聞いた話によると、兄はそこで魂だけの存在のまま、ずっとオレを見守っていたらしい。
 悲しげに揺れる彼の赤い瞳。ああ、そんな顔をしないでほしい。
 きっと他にも言いたいこと、聞きたいことがあるのだろう。それをも飲み込んだということは、これは兄にとってとても大事な話なのだ。

「……ごめんね、お兄ちゃん。……まだ……言えないんだ。
 きっと……怒られる。オレは弱虫だから、それが怖くて……言えないんだ」

 だけど、いつか。近い未来、ちゃんと話すから。
 オレが大切な彼に言えたのは、それだけだった。
 兄は何か言いたげに視線を向けていたが、やがて諦めたのか、その手を離した。

「……僕はまた、待つしかできないんだね」

「……ごめん」

 涙を堪えたようなその呟きに、オレは謝るしかできなくて。
 だから代わりに、いつかの返事を送ることにした。

「前に……お兄ちゃん言ったよね。ヒアの中にいたオレに向かって。
 “僕はもう必要ないの? 僕の存在にはもう価値はないの?”って」

「……っ」

「そんなことないよ。オレは……まだうまく、みんなやお兄ちゃんを頼ることができなくて……こうして傷つけたり迷惑をかけてばかりだけど。
 でも、それでも。オレに……よるにとって、お兄ちゃんは世界で一番たいせつな存在なんだよ」

 今度はこちらから、その手を握る。あたたかなその体温に、ぽつり、と雫が落ちた。

「……夜は……ずるいね。ずるいよ……」

 ぽろりぽろりと落ちる涙。でも、ありがとう。兄はそう、ことばを零した。

 +++

 その後、兄と共に天使を倒しつつ歩いていると、波止場の近くで件の二人、そしてよく見知った……それでいて懐かしい黒髪の女性が、天使たちと対峙しているのを見つけた。
 あの三人なら難なく倒せるだろう、とは思いつつ、オレは詠唱する。

「――“終焉に紡ぐ鎮魂歌,我が魂によりて,生きる全ての生命を……消し去れ。
 『フィニス・ウィターエ』”!!」

 その闇属性の魔法に、彼らを囲んでいた天使たちは崩れ落ちる。
 目前の脅威が去り、深雪たちに怪我がないことを確認して、オレはほっと息を吐いた。

「夜、朝!」

「夜くん、朝くん!」

 彼女とソレイユ、そして深雪が、オレとお兄ちゃんの名前を呼びながら駆けてくる。

「三人とも……無事だよね。よかった」

「無事って……夜、アンタがそれを言うのかい!? アタシたちがどんなに心配したか!!
 ああ、もう……っ!! ……おかえり、おかえり、夜……ッ!」

 そう言いながら、彼女は感極まったかのようにオレに抱きついてきた。
 それを苦しいよ、とやんわり引き離して、オレは彼女に笑みを向ける。

「ただいま。……心配かけてごめんね……桜爛オウラン

 彼女……桜爛はオレたち先代“双騎士”と共に旅をした仲間で、【太陽神】ルーの保護者でもある女性だった。
 明るくサバサバとした性格で、いつもオレたちの戦いを助けてくれていた。
 オレの言葉に、桜爛は目元を拭いながら、本当にね、と笑ってくれる。
 ……ああ、オレは本当に仲間に恵まれている。こうして涙を流すほど心配して……そして迎え入れてくれるのだから。

「これで朝も一安心だね。アンタが眠ってた頃の朝はとてもじゃないけど見ていられなかったから」

「……ごめん」

 からかうような……それでいて安堵したような桜爛に、お兄ちゃんは申し訳なさそうに謝った。

「まあまあ、その辺で。まだ天使たちは残ってるしな」

 苦笑いを浮かべながら、ソレイユがそう言って間に入る。
 そうだね、と頷いてから、オレは辺りを見回した。
 この近辺にはもう天使はいないようだけど……街の奥ではまだ戦っているようだ。

(……それに、“あの子”もヒアたちと合流できたみたいだし)

「事情はだいたい深雪とソレイユから聞いたよ。この港を守るため、アタシも加勢するからね!」

「ええ。桜爛さんが一緒なら、心強いですネ」

 オレの思考を遮るように、桜爛がそう宣言し、それに深雪が同意している。
 ……どうやらオレが苦手な説明を、彼らは先に済ませてくれたようだ。

「それじゃ、行こう。街の奥にはまだ天使がいるみたいだし、ね」

 微笑を浮かべて行き先を指差せば、桜爛がきょとんとした表情でオレを見てきた。
 理由がわからず首を傾げると、彼女は「いや、たいしたことじゃないんだけどさ」と言いながらも言葉を続けた。

「夜、アンタ変わったな、と思ってね……。そんな穏やかな笑顔、できるようになったんだねえ」

「……ああ……。まあ、うん。それ、深雪たちにも同じこと言われたよ」

 魂の同居人こと元【歌神候補】ツィールト・ザンクからは、なぜか「逆にこわいよ……」と引かれたのだが、仲間内からは評判がいいみたいで安心した。
 もう大丈夫だから、と言えば、一人で抱え込んじゃだめだよ、と桜爛から言われてしまったが。
 一人で抱え込んでいるつもりはない。……ただ、他人に自分の言葉を伝えるのが苦手なだけなんだ。

 ふと、昨夜ヒアから言われた言葉が脳裏を過ぎった。


(夜先輩も、自分のことを信じて……自分のことを、大切に……愛してあげてください)


(……無茶なこと言うよね、ヒアも。……何も知らないくせに)

 心を掠めたそんな絶望に気づかないふりをして、オレは歩き出したのだった。




 Past.43 Fin.
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