Night×Knights

Chapter07. 出逢~新たな仲間~


 オレたちの前に現れた四人組。……果たして、一体何者なのだろうか?


「お……お前ら、一体……」

 オレが彼らに尋ねると、リウが傍にやってきて答えをくれた。

「現れたわね、新たな“双騎士ナイト”」

「な……ナイト……?」

 聞き慣れない言葉に、彼女は「そう言えば、まだ説明してなかったね」と微笑んだ。

「簡単に言うと、あなたと朝みたいなことよ。
 異世界から召喚された“召喚者しょうかんしゃ”と、この世界に住んでる“契約者けいやくしゃ”。
 二人合わせて“双騎士ナイト”と呼ばれる存在なの」

 なるほど、先ほど出逢ったリツとやらが言っていた“召喚者”とはこの事だったのか。
 納得した、と頷けば、リウがレンの分まで自己紹介を始めた。

「さて、それじゃあ自己紹介をしましょうか。
 私は【予言者】のリウ。リウ・リル・ラグナロク。
 そっちにいるのは魔術師のレンパイア・グロウ。よろしくね!」

「オレは夜。蛹海 夜さなうみ よる。こっちはアサ。よろしくな!」

 それに倣ってオレも名乗り、ついでに朝のことも紹介しておく。きっと自分ではしないだろうから。

「夜と朝……ってまんまだなー」

「いや、それツッコミ禁止だろ……」

 オレンジ髪の青年ののんびりとしたツッコミを、金髪の青年が止めてくれた。
 己のネーミングセンスのなさは、もう気にしないことにしよう。

「あー……大丈夫、そのリアクション二回目だから。
 ……で、お前らは?」

 どこかの誰かさんもそんな反応だったしな、と呟いてから、オレはそいつらに自己紹介を催促する。

「あ、オレはイビア! イビア・レイル・フィレーネ。
 実はリウやレンとは同じ修道院で暮らしていた仲だったりするんだけど……まあそれは置いといて」

 ……どうやらリウたちと知り合いらしい。
 彼女が先ほどから笑顔なのは友達に久しぶりに会えたから、なのだろうか。

「さっきの説明的に言うと……オレは“契約者”だ。
 んで、こっちの無口なポニーテールは黒翼こくよく
 オレは姫って呼んでるんだけどな。姫は“召喚者”だ」

 オレンジ髪……改め、イビアがそう言って、よろしく、と笑う。
 黒翼、というのがずっと黙ってる琥珀色の髪を頭頂部で結んだ少年の名前らしい。

「……男、だよな? 何で姫……?」

「姫っぽいだろ?」

 オレの素朴な疑問に、イビアは当然、という風に答えた。
 ……姫っぽいかどうかはともかくとして、当の本人が彼を睨んでいるのは教えてあげるべきか否か……。
 そんなことに悩むオレを余所に、イビアは他の二人を促していた。

「はい、次お前らなー」

「おー。オレはソレイユ。ソレイユ・ソルア。“契約者”だ」

 ソレイユ、と名乗ったのは金髪の方。
 片手に銃を持っていることから、先ほど銃を放って魔物から助けてくれたのはコイツなのだろう。
 ひらひらと手を振りながら笑う彼は、失礼だがなんとなく軽そうな印象を受けた。

「私は……羽崇深雪うたかみゆき、と申します。……えっと、“召喚者”、です。
 よろしくお願いしますネ」

 にこり、と笑ったのはあの白髪の歌唄い。それらに頷いてから、オレはふと首を傾げた。

「うたか……みゆき……? なんか、聞き覚えが……」

 オレがその顔を見ながら呟くと、歌唄い……深雪はビクリと反応した。

「お前さ、もしかしてオレと同じ世界……日本から来た?」

「……はい」

 ……やっぱり。意外な所で同郷の奴と会うものなんだな……。オレは更に尋ねる。

「そっか。どこに住んでた? オレ、神原かんばらなんだけど」

「……わあ、近いですネ。私、虹原にじはらです」

 神原区と虹原区は隣接する地域だ。
 お互いに特に目立った特色もない、田舎すぎず都会でもない、ありふれた静かな場所だった。

「高校生……だよな? オレ、神原第二高校に通ってたんだけど、深雪は?」

「私は……北雫きたしずく学園、です」

「北雫……って、あの進学校の!?」

 オレが通っていた神原第二高校は、学力も治安もごく普通な公立校だ。
 それに比べて、北雫学園は学力も高く通ってるのは金持ちがほとんど、加えて小学校からエスカレーター式で進学出来る県内トップレベルの私立校だそうだ。

 ……深雪、すごいな……。

 しかしオレは、ふと思い出してしまった。

「……でも、北雫学園って……確かこの間、何か事件なかったっけ……?」

 深雪がまたビクリと反応する。
 ちょうどオレがこの世界に来る一、二週間くらい前だった。
 ――北雫学園高等部。刺傷事件。羽崇深雪……。

「っあーーーーっ!!」

「!!」

「な、なんだよ急に?」

 オレの突然の大声に、それまで話についていけず呆然とオレたちの会話を聞いていた朝たち……ソレイユとイビア、黒翼までもが驚く。

「わ、わりぃ……。いや、じゃなくて! 深雪、ちょっと来い!」

 有無を言わさず深雪の手を引っ張って、オレはみんなから離れる。
 後ろから深雪の名を呼ぶソレイユの声が聞こえるが、構わず連れていく。

 そうだ、思い出した、コイツは……!

 +++

「な……何、ですか? 急に……」

「ご、ごめん。痛かったよな……。
 ……なあ、深雪。北雫って……確か、刺傷事件が……あったよな?」

「…………っ」

 手を離したオレの言葉に、深雪は息を飲む。
 ああ、その反応は……やっぱり、そうなんだ。

 ――……オレがこの世界に来るより約二週間ほど前、北雫学園高等部で生徒が刺される事件が起こった。
 犯人の生徒は、登校前に家で両親も殺害。
 クラスメイトを刺した後は、屋上から飛び降りて……行方不明。
 地面に遺体はなく、地元では神隠しにあったのでは、と騒がれていたのをよく覚えている。
 そして、その生徒の名前が……――

「羽崇深雪。北雫学園高等部の生徒……」

「……」

 深雪は俯いて、黙ったままだった。その沈黙を肯定と取り、オレは更に続ける。

「何で……友だち刺したんだよ? 何で両親殺したんだよっ!?」

「……」

「深雪っ!! 答えろよ!!」

 なぜだか泣きそうになりながらも、オレは目の前の歌唄いに問い詰める。

「……何で貴方が泣きそうなんですか」

 やがて深雪は顔を上げて、苦笑いをこぼした。
 その瞳はまっすぐで、罪も痛みも捨てずにまだ抱え込んでいるようだった。

「……私を、犯罪者だと断罪しますか?」

「……っそんなこと……わからないよ。わからないけど……知りたいんだ。
 何があったんだ、どうして……あんなことを……っ!」

 実際に北雫学園に知り合いがいたわけでもない。
 こうしてこの世界で深雪と出逢わなければ、オレは一生他人事でいただろう。
 そんな無責任なオレに、深雪を断罪できるはずもない。

「……教えてよ、深雪。理由を聞かないと、オレは……どうしたらいいか、わからないよ……」

 深雪の紅い瞳に、情けない顔の自分の顔が映る。
 哀しいのかもしれない。怒っているのかもしれない。
 オレは、自分の感情すらわからなくなっていた。

「……そう、ですネ。
 ……私……音楽の才能というものがあるらしいんですヨ」

 しばらくしてから口を開いたその人は、嫌なんですけどネ、と言いながら、今度は微笑んだ。

「親からは過剰に期待されて、友人たちからは勝手に将来決められて。
 それで……ずっと我慢してたものが爆発したんですヨ」

 深雪はわらう。奇麗に、キレイに。
 ……だからって、何も殺したり、傷付けたりする必要はないじゃないか。
 ……いや、それはオレが勝手にそう思っているだけ。
 きっと深雪は、そこに至るまでたくさん傷ついて、苦しんだのだろう。

(……オレの、ように)

「……もー。だから何で夜くんが泣くんですかー?」

 深雪の指摘通り、オレは泣いていた。静かに、その人の痛みを背負うように。

(ひどいエゴだとは、思うけれど)

「だ……って、深雪……悲しくないのか? 辛くないのか? ……苦しく、ないのか……?」

「どうしてです?」

「だって、人刺して……親、こ……殺したんだろ……!? そんな……そんなのって……っ!!
 オレだったら耐えられないよ、誰かを殺してまで存在する自分が何よりも許せな……ッ!!」

 ふわり、と笑う深雪に泣き叫ぶように言い放つ途中で、オレは突然激しい頭痛に襲われる。

「夜くん!?」

 深雪が悲鳴に近い声でオレの名を呼び、太陽を吸い込んだ土の匂いが、オレを包み込む。
 どうやら倒れたらしい、と理解する前に、オレの意識は一度途切れた。

 +++

 ――どうして? どうしてあの子が……っ!!――

 泣かないで。泣かないで……。

 ――どうしてあの子なの? どうして……――

 泣かないで、おねがい……。

 ――あの子じゃなくてアンタが……!!――

 ごめんなさい。……生まれてきて、ごめんなさい。

 ――返して。あの子を、あの子を返して……ッ!!――

 ごめん……なさい……。存在して、ごめんなさい……。

「存在しちゃいけないものなんて、何もないよ」

 ……ああ……光だ……――

 +++

 ぱちり、と目を開けると、心配そうな深雪と朝の顔が飛び込んできた。

「えーと……オレ……?」

「夜っ!! 心配したんだよ!?」

「大丈夫ですか、夜くん?」

 未だぼーっとする頭で状況を確認しようとしたら、朝と深雪が声をかけてきた。

「あー……ごめん、大丈夫。もう平気!」

 なんだか夢を見ていた気がするけれど……思い出せないし、今は良しとしよう。
 二人に大丈夫、と笑うと、不意に彼らの背後から見知らぬ赤髪の子供がひょっこり現れた。

「あ。よかった! 目、さめたんだね!」

「ふぇっ!? ……だ、誰だ……?」

 無邪気に笑う子供に尋ねてみれば、彼は「そういえば、おにいちゃんにはまだ言ってなかったね」と頷いてから、名乗ってくれた。

「ぼくはルー。ルー・トゥアハ・デ・ダナーン。
 【太陽神】だよ!」

 輝くようなその声に、オレは助けられたのだと知ったのは……随分と先のことだった。


(きみの存在に、救われてきた)
(このときの自分はまだ、何も知らなかったけれど)


 Chapter07.Fin.
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