僕たちが見守る中、レンたちとリツたちの戦いが始まった。
深雪たちはレンとリウから話を聞いたのか、彼らを敵だと認識したらしい。
「よっし、いっちょやってやるかぁ! ……食らえっ!」
ソレイユがそう叫んで銃を放つと、その弾丸は少女が連れていた巨大な猫の見た目をした魔物に命中した。
「……っよくも私の友だちを……! みんな……お願い……っ!!」
彼女が手を振り上げると、他の魔物たちがみんなに襲いかかる。
「――“天空に弾けしは緋き焔,其を創りしは緋き疾風,紡ぎし灯火よ,疾れ!
……『バースト・フレイム』!!”」
「――“我が名の下に光を灯せ! 『グレウル』”!!」
レンが呪文を詠唱して炎を放ち、イビアも光を纏った呪符を魔物へと投げた。
「彼は呪符使いのようだね」
興味深そうに見ている君に、僕はそう説明をする。
さっき札を投げて魔物から助けてくれたのはイビアだったんだな、とひとり納得する君を余所に、二人の攻撃は見事命中し、魔物たちは倒れた。
「今だ、姫っ!!」
そうイビアが叫ぶと、上空から背に黒い翼を生やし刀を構えた黒翼が現れ、残りの魔物を薙ぎ払う。
……けれど、それでも倒れていないしぶとい魔物もいて、猪にも似たそれはターゲットを切り替えたのか、僕たちの方へと走ってきた。
「う、わあ!?」
君が咄嗟に剣を構えてリウとルーを守ろうとする。
僕は瞬時に君と、ついでに彼女たちを守るための結界魔法を発動させた。
「――“『風障壁(ウィール)』”」
猪の魔物は風属性の壁に阻まれ、僕たちのもとへたどり着くことができない。
「よそ見してんじゃないよ!!」
「貴方の相手はこっちですヨ!」
すると、桜爛と深雪が、その猪型の魔物の背後から切りかかった。
桜爛さんの両手には二対の剣、そして深雪の手には短剣が握られている。
そんな彼女たちの攻撃によって、魔物は倒れ空中に消えていった。
「た、助かったよ、朝。 深雪と桜爛さんも」
君がほっと息を吐いて感謝を述べるから、僕は少しだけ微笑んでみせる。
同じく礼を言われた深雪と桜爛も、どういたしまして、と笑って他の魔物の元へと走っていった。
一方、残りのカイゼルとリツはというと、二人で戦っていた。
「何だよ、今日はひよっこ勇者じゃねーのかよ!」
「……悪いな、ひよっこじゃなくて」
リツの剣を軽やかにかわしながら、カイゼルは面倒くさそうに答える。
「てーか、お前! やる気あんのかよッ!?」
自身の双剣をあまりにも軽々しくかわすからか、リツは随分と怒っているようだ。
しかしそんな彼にカイゼルはただため息をついただけだった。
「……ねぇな。 面倒くせぇ」
「くっそ……っ!! 腹立つ!!」
リツが剣を思い切り降り下ろすが、カイゼルはまたあっさりとそれを避けると、彼の背後に回った。
「一発食らわせてやるよ」
そう言うやいなや、カイゼルはリツの背中に思いっ切り蹴りを入れた。
「い……ってぇぇっ!?」
うん、痛いだろうな、とよろけながらも瞬時にバランスを取り直したリツを見ながら、君が呟く。
すると彼はカイゼルから一度距離を置き、剣を構え直した。
「あーっ!! ちくしょうっ!! 本気モード!!
――“生命溢れるこの地の神よ,怒れ!! 『グランド・グラビティ』”!!」
早口で呪文を詠唱し、リツは剣を再び降り下ろす。
すると。
――ドォォォォン!!
とても大きな音がして地面が抉れ、砂塵が僕たちの視界を埋め尽くす。 彼はどうやら魔法剣士というものだったらしい。
「カイゼルおにいちゃんっ!!」
あまりの威力に呆然とする君とは正反対に、ルーが悲鳴をあげる。
やがて土埃が晴れると、砂に汚れながらも何とかギリギリ避けたらしいカイゼルの姿が見えた。
よかった、と安堵するルーに頷いた君。 僕たちは再び彼らを見る。
「……ちっ……やるじゃねーか、ガキ」
「うっせーよ不良」
まるで子供同士の喧嘩のようだ、と君は苦笑いを浮かべたけど、すぐさま何かに気がついたように顔色が悪くなった。
……きっと、リツの『本気』という言葉を気にしているのだろう。
自分なんて、と自己否定を繰り返して、ぐるぐると思考の渦に嵌ってしまっているのだろう。
(だから、僕が)
「よる」
君の手を、ぎゅっと握る。 あたたかい。
君の深海の瞳が、不安げに揺らめいている。
「大丈夫だよ、夜」
そう……大丈夫。 夜、君がいれば、僕は……――
(どんなことだって、乗り越えられる。 きっと……)
「……リツ!!」
意志を取り戻した君の呼び声に、カイゼルと戦っていたリツが怪訝そうに僕たちの方を見やる。
「……何だよ、ひよっこ勇者」
「今度は……オレ『たち』が相手だ」
相手を信じる気持ち。 相手を想う気持ち。
それらが『力』となって、僕たちを『ひとつ』にする……――
「!? “同化”……!? 方法をマスターしたというの!?」
光に包まれながら、リウの声を聞いた。
――ずっと、ずっと独りで、ずっと、ずっと泣いていた君。
君を助けたくて、手を差し伸べた。 そうして君が笑ってくれた、僕はただ、それだけで……――
目を開けると、僕は僕であり、僕ではなくなっていた。
……“同化”。 今の僕は僕であり、君であり、全く別の存在へと変化していた。
「な……何、だよ……お前……っ!?」
「これは……なんなの……?」
目の前のリツや獣使いの女の子が驚いている。 もちろん、リウやレン以外の仲間たちも。
『……行くぞ、リツ!!』
僕であり君である存在は、リツとの間合いを一気に詰め、剣で斬りかかる。
「――ッ!?」
リツはとっさに避けたが、先ほどまで彼がいた場所は僕たちの攻撃で深く抉れていた。
+++
「な……何、ですか……アレ……」
魔物たちを振り切って、深雪はリウに駆け寄りそう尋ねた。
「あれは、“同化”。 夜と朝の特殊能力みたいなものよ」
「特殊……能力……?」
彼らを見やりながら反芻すれば、少女はどこか悲しみを湛えた微笑を浮かべながら、なおも説明を続けた。
「……“双騎士”の中でも、あの二人は特別だからね。
対である双りが“同化”する事で、彼らは初めて“騎士”になれる」
「ふたりで……ひとり……」
彼らは、何者なのだろうか。 深雪はじっとその存在を見つめた。
+++
「……くっそぉ!!
――“全ての魂眠りし大地よ,我が剣に力を宿せ!! 『ソード・グラ……』”」
「リツ……撤退する」
激昂したリツが、こちらへ攻撃をしようと詠唱を始める。 だが、それは獣使いの少女によって遮られた。
「な、何でだよセルノア!?」
「このままだと……負ける。 一旦、引き上げるの」
「――ちッ!!」
セルノア、と言う名前らしい少女の提案にしぶしぶ納得した様子のリツは僕たちから飛び退いて、彼女が呼んだ巨鳥に一緒に飛び乗り逃げて行った。
「ちッ。 逃げ足の早い奴らだな……」
近くにいたカイゼルの言葉を聞きながら、僕たちの意識は遠のいた……――
(ふたりなら、どんな敵が来ても大丈夫。 ……『オレ』は、そう、信じていた)
(信じていた、たとえ未来が不安に満ちていたとしても……君の笑顔だけは、守りたかったから)
Capcher9.Fin.
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