あれから最初の街、ドゥーアに着いたオレたち。この街は中世ヨーロッパのような建物が建ち並んでいて、歩いていてとても楽しい街だ。
ここへ来るまでの道のりは散々だった。当たり前だけど生まれて初めての魔物との戦闘。
オレは修道院でリーサさんから貰った剣を適当に振り回していたが、結構怖い。
しかしソカルが意外と強くて、ほとんど彼が戦ってくれていたのだが。
回復魔法とやらも使えるようで、それにも大変お世話になった。本人曰く簡易魔法らしいが、その辺はよくわからない。
それはさておき、やっとの思いでたどり着いたドゥーアの街。
今オレたちは宿屋を探して歩いているのだが。
「ですから、そっちが先にぶつかって来たのでしょう!?」
「うるせぇ! 自警団に突き出されたくなかったら騒ぐんじゃねぇこのアマっ!!」
……以上の通り、オレたちの目の前には柄の悪いオッサン数人に絡まれてる女の子がいた。
「……ソカル、オレたちは何も見てないよな」
「……賢明な判断だね」
こういう時は見てみぬフリがモットーなオレに、ソカルも同意してくれた。
ですよねー。見知らぬ人のために不良に突っ込むバカがどこに……。
「あんたたち止めな! その娘嫌がってるじゃないか!!」
……いた。猫耳の女の子がオッサンたちにケンカふっかけたのだ。
「なんだテメェ!」
「テメェも自警団に突きだしてやろうか!!」
「ふんっ! 自警団自警団ってこれだからドゥーアの連中は!!」
わあすごいあの女の子。この際猫耳はツッコまないことにする。オッサン相手に口げんかで負けてない。
彼女の声に釣られて、何人かの野次馬たちも集まってきた。
……それにしても。
「じけーだんって、何?」
小声で隣のソカルに尋ねてみる。
「このドゥーアの街には有志の団体があってね。悪人を捕まえたりしてるらしいんだ。それが自警団」
僕も聞いただけだけど、と同じく小声でソカルが答えてくれた。
「ふーん、警察みたいなもんか。どう見たってオッサンの方が悪人だけどな」
ひそひそと野次馬に混じって会話を続けているオレたちだったけど、突然の銃声に身を竦ませる。
――パァン!!
「大人しくしねぇと今度はテメェに当てるぞ!!」
どうやらオッサンその一が銃を放ったらしい。
……え、ここっていわゆる『剣と魔法の世界』じゃないんスか!?
「銃なんて放って。あんたたちに分が悪くなるだけだよ! これだからバカは」
ため息をつきながら女の子はそう言った。
お願いだからこれ以上オッサンたちを煽らないで!! と野次馬たちが冷や汗をかきながら内心でツッコみ、最初にオッサンたちに絡まれてた娘も呆然としてる。逃げればいいのに。
「てんめぇ……オレたちをバカにしやがって!! やっちまえ!!」
オッサンその二がそういうと、他のオッサンたちが猫耳娘に襲いかかる。銃に剣に槍と、バリエーションが実に豊かだ。
「多勢に無勢……卑怯だよあんたたち!!」
先にケンカふっかけたのお前じゃん猫耳娘。
オレが心の中でツッコんでいると、他の野次馬たちが巻き込まれないように逃げ出した。
「ヒア、僕らも行こう」
「そうだな、巻き込まれたかねぇし」
ソカルに促され、オレも逃げようときびすを返す。
何かオレたち相性バッチリじゃん! ……とか思って歩きだそうとした瞬間、目の前にオレと同い年くらいの男が現れた。
「うっ腕のたつ旅の方とお見受けしてお願い申し上げます! 彼女に加勢してあげてくださいっ!!」
「……は、はあ!?」
いきなり何を言ってるんだ、コイツは。加勢って、あの猫耳娘にか!?
突然のことに反応に困っていると、その男は構わず話し出した。
「彼女は僕の連れなんですが、目を離した隙にあんなケンカを……っ」
「連れなら君が止めればいいだろ」
冷たい声で言い放つソカル。まあオレも同意見なのだが。
「そ、そうなんですけど、僕じゃちょっと無理で……」
そういう彼は確かに気が弱そうだ。
オレが心の中で頷いていると、猫耳娘とオッサンたちがオレたちに気がついた。
「……なんだぁテメェら」
「テメェらもボコボコにしてやろうか!?」
「ちょっとあんたたち、加勢するならするで早く……ってあぁ!
フィリ! フィリディリア! あんたどこ行ってたのさ!!」
オッサンたちに混じって、猫耳娘が大声を上げる。フィリ……なんとか、というのは現在進行形でオレたちの行く手を阻む男のことらしい。
「ナっちゃんが勝手にどっか行ったんじゃない!」
心外だ、とでも言うように男……フィリは言う。
よし、この隙に逃げ出そう……とオレとソカルは目配せをしてそろりと歩き出す、が。
「どこに行く気だぁ? 兄ちゃんたち」
運の悪いことにオッサンその一に捕まってしまった。
「離せオッサン」
「僕らを怒らせると痛い目見るよ」
完全に他人のケンカに巻き込まれてキレない人間は、まあそうそういないだろう。
+++
「あ、ありがとうございます!」
ぺこりと頭を下げたのは、最初にオッサンたちに絡まれてたふわふわな薄紫の髪の女の子。
「まあ、いいってことよ」
そう自慢気に言ったのは、オレンジ髪の猫耳娘。……っていうか、ちょっと待て。
「お前何もしてないじゃん」
「オッサンを煽ってコトを大きくしただけだろ」
オレとソカルは冷ややかにツッコむ。
そうなのだ。あの後ブチギレたオレたちは、オッサンたちをぶちのめした。……そのシーンは残念ながら諸事情によりお見せできません。
「まあ細かいことは気にするなってことで!」
「そうですよ、ナっちゃんを助けてくれて本当にありがとうございます」
ヘラヘラと笑う猫耳娘とフィリに怒りたくなるのを抑えるオレ。うん、我ながら偉い。
「じゃあオレたちもう行くから」
慣れないケンカで心身共々疲れてるんで、とは言わず、オレたちは歩き出す。
……しかし。
「まあ待ちなよ」
「もうお別れなんて寂しいです」
「お礼くらいさせてくださいな」
オレは猫耳娘に、ソカルはフィリに首根っこを掴まれ歩けなくなる。
更には女の子もそんなことを言い出して……。
オレとソカルは、三人に気付かれないようにため息をついた。
偶然の出逢い。だけどそれは、運命を動かす歯車へと……――
(きみたちへ。これは、ハジマリのキオク)
Past.04 Fin.