Destiny×Memories

Past.10 ~他者を護る二人~


 襲いかかってくる魔物をばっさばっさと切り払いながら森を進む少年について行くオレ。
 迷うことなく歩く少年は、どうやらこの森を知っているようだった。

「……みんな大丈夫かなあ……」

 不意に、仕方なくとは言えバラバラになった仲間たちが心配になる。まあ、みんなオレより強いから大丈夫だとは思うけど……。
 そんなオレの思考を遮るように、突然甲高い悲鳴が聞こえた。

「わあああああっ!!」

 あれ、あの声って……! オレは慌てて少年に伝える。

「いっ今の悲鳴! フィリ……オレの仲間だ!!」

 どうしよう、あの狼みたいな魔物に襲われたのかも!? と焦るオレを見て、少年は黙って声のした方向へ走り出した。
 えっちょっと、待ってください!

 +++

 走る少年について行って、辿り着いた先にはやはりフィリがいた。怯えた様子の彼だが、それでも詠唱の短い魔法とやらを唱えた形跡があった。
 フィリが対峙していたのは、オレたちを襲った狼みたいな魔物ではなく、動く植物だった。とは言えサイズはやはりというかなんというか、オレよりデカい。
 草には炎、の鉄則を守ったらしいフィリの魔法は、しかし周りの木々を焦がしただけだったようだ。

「フィリ!!」

 そんな状況を確認しながらも、とりあえずフィリの元へ駆け寄る。少年はオレたちを庇うように魔物に刀を向けた。

「あ、アーくん……っ!」

「大丈夫か、フィリ」

 今にも泣き出しそうなフィリの頭を撫でて、オレは尋ねる。頷くフィリを見て、ほっと息を吐く。良かった、ケガはしてないようだ。

「アーくん、あの人は……?」

 魔物を睨む少年に目線を向けて、フィリが首を傾げた。

「うーん、オレもよくわからないんだよな……。とにかくめちゃくちゃ強くって、オレを助けてくれたんだ」

「そうですか……不思議な人です……」

 不思議というか、何というか。
 そんなゆるい会話を交わすオレたちに目もくれず、少年は刀を構えて魔物に向かって走り出した。

「――“『炎舞連斬えんぶれんげき』”!!」

 空高くジャンプして炎を纏わせた刀を振り下ろし、そしてそのままもう一度攻撃を与える。

「――“静寂を切り裂く翼よ,我が剣に力を! 『翔炎剣しょうえんけん』”!!」

 呪文を唱えた瞬間、彼の背中に黒い翼が現れた。勢いよく植物の魔物を切り裂き、燃え盛るそいつを背に少年は着陸する。

「すごい……すごいです! カッコいいですー!!」

 わああ、と拍手をしながら歓声を上げるフィリを横目に、オレは刀を仕舞う少年を見つめた。

「……お前……何者なんだよ……」

 その黒い翼が、少年が普通の人間じゃないのだと訴えている。少年は少し悩むような素振りを見せたあと、さらりとこう言ってのけた。

「……吸血鬼だ」

 その言葉を聞いて、フィリを連れて思わず後ずさったのは間違いではないだろう。

「きゅ、きゅーけつきさんですかー……」

「アーくんアーくん、酷い棒読みですよ」

 フィリにツッコまれるが、何というかオレは混乱しまくっていた。それが本当でも嘘でも、目の前の彼が危険人物だということだけは理解できたが。色んな意味で。

「……別に、お前達の血を吸う訳じゃない」

 オレの反応に呆れたのか、微妙な顔をして少年がため息を吐いた。

「そんな事より、もう直ぐ出口だ。行くぞ」

 言うだけ言ってすたすたと歩き出した少年に、オレとフィリは顔を見合わせる。
 今更だけど……オレたち、コイツについて行っても大丈夫なのか? いやまあ、道がわからないからついて行くしかないんだけど。
 そんな事を悶々と考えながらしばらく歩くと、光が差し込む森の出口に着いた。

「やっと出口だぁぁ……!!」

 明るい太陽の光にほっとした瞬間、前方から聞き慣れた声が響いた。

「ヒア!!」

「フィリっ!」

「ヒアさん、フィリさん!」

「ソカル、ナヅキ、リブラ!!」

 そう、出口にいたのは先にここに着いたらしいソカルたちだった。その隣にはオレンジ色の髪の見知らぬ青年もいる。

「みんな無事だったんだな、良かった」

「ヒアたちこそ。……それより、あの人は……?」

 ほっとしたような顔のソカルが、オレたちと一緒に来た少年のことを尋ねてきた。

「オレたちを助けてくれた人。名前は……聞いても教えてくれなかった」

 ため息を吐きながらした説明に驚いたのは、青年だった。

「えっ。お前名乗ってなかったのかよ!」

「……面倒臭い」

「お前なあ……」

 どうやら青年と少年は知り合いらしい。
 というかそう言うあんたこそ誰だよ、と怪訝そうな表情で青年を見やると、その視線に気づいたのか彼はああ! と思い出したように自己紹介を始めた。

「オレはイビア・レイル・フィレーネ。こっちは黒翼こくよくって言うんだ」

 よろしくな! と笑う青年……イビアさんにつられ、オレとフィリも自己紹介を済ます。

「僕らも彼に助けてもらったんだ」

「いやいや、助けただなんて大げさだなぁ」

 ソカルがそう補足すれば、イビアさんは笑顔のまま首を振る。
 和やかな雰囲気が、その場に流れようとした……その時だった。


 ――グォォォォォ……ッ!!


「……ッ!!」

 魔物の叫び声が響くのと、黒翼が刀を抜くのは同時だった。見れば、森の出口からあの狼みたいな魔物がこちらを睨んでいた。

「ひゃあああ!!」

「あいつまた……!!」

 フィリが悲鳴を上げ、オレたちも武器を構えて魔物と対峙する。そんな中、イビアさんは余裕そうな顔でニヤリと笑った。

「へえ、まあまあ強そうだな。やれるか? 黒翼」

「当然」

 魔物に刀を向けたまま、黒翼は頷く。
 その反応に満足そうに笑って、イビアさんは札のような物を構えた。

「じゃあ、ちょっくら先輩の強さってのを見せてやろうか!!」


 ああ、またオレは、怖くなる。



 Past.10 Fin.
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