「……さっきは、ごめんね……夜」
【識神】ミネルの攻撃からオレを守るため、咄嗟に“同化”を解除した兄。
無効化魔法は間に合わず、彼はそのまま地に落ちていった。
――目の前が真っ暗になる。
自分を庇って倒れた兄の姿が、遠くに視える。
ああ、どうして。
お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん――!!
「あ、ああ……ああああああ――!!」
荒れ狂う絶望と憎悪。
オレにはお兄ちゃんが必要なのに。お兄ちゃんさえいれば、他には何も必要ないのに。お兄ちゃんを守るために、こんなチカラまで求めたのに!!
「お兄ちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん……!!
いや、やだ、いやああああ……ッ!!」
お兄ちゃんを傷つける世界なんていらない。
お兄ちゃんを殺す世界なんて……そんな、世界なんて。
「……ぜんぶ、よるが、こわすから」
呟いたその言の葉は、溢れる涙と共に真っ暗闇へと溶けていく。
破壊衝動が暴走していく。 愛したはずの世界を壊すために。
お願い、スピカ。お兄ちゃんを助けて……――
転がるように、堕ちるように。
真っ暗な感情に、呑み込まれていく。
ああ、けれど……――
手を引かれる。抱きしめられる。存在が伝わる。涙が溢れる。
「僕は、ここにいるよ、夜……」
動けないはずなのに。致命傷に近い傷を負ったくせに。
絶望に身を堕とすこんなオレなんかを助けるためだけに、むりやり動いたりなんてして……ああ、本当に。
(ばかなひと。たいせつな、ひと)
お願い、スピカ。彼を助けて。この世界を……助けて。
涙が零れる。闇が消えていく。
残ったのは、背中に抱きつく兄のぬくもりと、ぐちゃぐちゃな感情。
止まらない嗚咽と、大丈夫、と繰り返す兄の声。
目の前が暗くなる。
ねえ、お願い、スピカ。あの人に伝えて。
たいせつなのだと。無茶ばかりしないでと。
空に輝く一等星に、願いをかける。
遠のく意識に、兄や仲間たちの呼び声が聞こえたけれど。
大丈夫だよ。眠りに落ちる直前、オレはちゃんと、そう笑えただろうか……?
心配ないよって、伝えたいのに。
お願い、スピカ……――
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