とりあえず、立ち話もなんだし、ということで、僕たちはリウとレンが暮らしているという修道院へ来ていた。
孤児院も兼ねているらしいそこには、小さな子どももたくさんいて、とても賑やかだった。
「……で、オレたちはこれからどうすればいいんだ?」
日の当たるバルコニーで、紅茶を飲みながら、君が二人に聞く。
「んー。とりあえず私たちと一緒に旅に出ないとね」
「……え、リウたちも一緒に?」
変わらず笑顔のリウと不機嫌そうなレンを見て、君は驚いたような声をあげる。
「うん。二人だけじゃわからないことだらけだろうし……不安だからね」
「……ってか、とどのつまりオレたちは何をしなきゃいけないんだ?」
彼女の言葉に少しだけむっとしながらも、君は目的を尋ねた。
「この世界とリウを狙う組織……“黒き救世主”を倒すことだ」
「ふむふむ、つまり悪者を……って、えっ!?」
痛みを堪えたようなレンの声音に気付かず、君は少女を見やった。
「私、予言者だからね。その力を悪用しようとする人って結構いるのよ」
「……わかった。そのダークメシアとか言うのを倒せばいいんだな!?」
悲しげに微笑む彼女に同情したのか、君はがたん、と立ち上がった。すかさず隣に座っていた僕は、そっとツッコミを入れる。
「……ていうか君、どうやって闘うのさ……」
君はひどく間抜けな顔をした。
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「これは……ラ●トセイバー……?」
中庭に移動してから、君が少女から渡された武器は、一見するとただの棒だった。
しかしスイッチを入れると、低い稼働音がして光る刃が出てくる仕組みらしい。
「……夜、剣なんて使えるの?」
思わず僕は不安げに君を見てしまった。
「……ごめん。使ったことはないかな……」
「大丈夫! 振り回してればその内慣れるよ!」
僕たちは巻き込まれないように、君から少し離れた場所で待機している。君はそれに不満そうな顔をしながらも、剣を勢いよく降り下ろした。
「うりゃあっ!!」
君の気合の入った掛け声が響いた、刹那。
ドゴォォッ!!
……ものすごい音がして、地面が抉れた。
「んー……もうちょっと力加減が必要ね!」
「…………」
でもバッチリ、大丈夫! と笑う少女に、君は困ったような視線を向けた。
「……よし! オレは大丈夫だから、さっさと旅に出ようぜ!」
しばらく考えてから、剣を握りなおして君が気を取り直したけれど。
「うーん……そうしたいのは山々なんだけど……。
もうすぐ日が暮れちゃうから、明日の朝に出発しましょ!」
……僕の隣で、魔術師が深くため息をついていた。
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この修道院のシスターが作ったという料理を、君が一人感動しながら食べているのを横目に僕も黙々と食す。
すると、不意にリウが君に話しかけた。
「ね。何で夜はこの世界にきたの?」
ひどく軽いノリで尋ねた少女に、君はさらりと答える。
「うーん……元の世界にいたくなかったからかなぁ」
「どうして?」
真っ直ぐな瞳で見つめる彼女に、君が深い思考の海にはまってしまったことを感じる。
ああ、そんな質問なんて、させなければよかった。
「夜」
「……朝……」
そっと名を呼べば、君はぼんやりとした視線を僕に向けた。
(思い出さないで、お願いだから)
(……それが僕の、エゴだとしても)
「夜、大丈夫? ごめんね……何か聞いちゃダメなこと聞いちゃったかな……」
少女が申し訳なさそうに君に謝った。
「あ、いや……。別に、大丈夫だよ」
我に返った君が、とても泣きそうな笑顔を、彼女に向けていた。
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シスターに貸してもらった部屋で、今日はもう眠ることになった。
「うわぁー……RPGみたいだー……」
「夜。電気消すよ」
感嘆の声を漏らす君に、声をかける。
ごうん、ごうん、と、遠くから風車の回る音だけが響いている。……静かな、夜だった。
「……朝、おやすみ」
君が嬉しそうに、楽しそうに挨拶をするものだから、僕も釣られて返事をした。
「……おやすみ」
(このまま、こんな穏やかな日々が続けばいいのに)
(そう祈るくらいは、赦されるだろう)
だけど、世界は、残酷だった。
Reversed Act.02…それでも少年は、幸せを願った。