Night×Knights

Reversed Act.02


 とりあえず、立ち話もなんだし、ということで、僕たちはリウとレンが暮らしているという修道院へ来ていた。

 孤児院も兼ねているらしいそこには、小さな子どももたくさんいて、とても賑やかだった。

 

 

「……で、オレたちはこれからどうすればいいんだ?」

 

 日の当たるバルコニーで、紅茶を飲みながら、君が二人に聞く。

 

「んー。とりあえず私たちと一緒に旅に出ないとね」

 

「……え、リウたちも一緒に?」

 

 変わらず笑顔のリウと不機嫌そうなレンを見て、君は驚いたような声をあげる。

 

「うん。二人だけじゃわからないことだらけだろうし……不安だからね」

 

「……ってか、とどのつまりオレたちは何をしなきゃいけないんだ?」

 

 彼女の言葉に少しだけむっとしながらも、君は目的を尋ねた。

 

「この世界とリウを狙う組織……“黒き救世主ダークメシア”を倒すことだ」

 

「ふむふむ、つまり悪者を……って、えっ!?」

 

 痛みを堪えたようなレンの声音に気付かず、君は少女を見やった。

 

「私、予言者だからね。その力を悪用しようとする人って結構いるのよ」

 

「……わかった。そのダークメシアとか言うのを倒せばいいんだな!?」

 

 悲しげに微笑む彼女に同情したのか、君はがたん、と立ち上がった。すかさず隣に座っていた僕は、そっとツッコミを入れる。

 

「……ていうか君、どうやって闘うのさ……」

 

 君はひどく間抜けな顔をした。

 

  +++

 

「これは……ラ●トセイバー……?」

 

 中庭に移動してから、君が少女から渡された武器は、一見するとただの棒だった。

 しかしスイッチを入れると、低い稼働音がして光る刃が出てくる仕組みらしい。

 

「……夜、剣なんて使えるの?」

 

 思わず僕は不安げに君を見てしまった。

 

「……ごめん。使ったことはないかな……」

 

「大丈夫! 振り回してればその内慣れるよ!」

 

 僕たちは巻き込まれないように、君から少し離れた場所で待機している。君はそれに不満そうな顔をしながらも、剣を勢いよく降り下ろした。

 

「うりゃあっ!!」

 

 君の気合の入った掛け声が響いた、刹那。

 

 ドゴォォッ!!

 

 ……ものすごい音がして、地面が抉れた。

 

「んー……もうちょっと力加減が必要ね!」

 

「…………」

 

 でもバッチリ、大丈夫! と笑う少女に、君は困ったような視線を向けた。

 

「……よし! オレは大丈夫だから、さっさと旅に出ようぜ!」

 

 しばらく考えてから、剣を握りなおして君が気を取り直したけれど。

 

「うーん……そうしたいのは山々なんだけど……。

 もうすぐ日が暮れちゃうから、明日の朝に出発しましょ!」

 

 ……僕の隣で、魔術師が深くため息をついていた。

 

 +++

 

 この修道院のシスターが作ったという料理を、君が一人感動しながら食べているのを横目に僕も黙々と食す。

 すると、不意にリウが君に話しかけた。

 

「ね。何で夜はこの世界にきたの?」

 

 ひどく軽いノリで尋ねた少女に、君はさらりと答える。

 

「うーん……元の世界にいたくなかったからかなぁ」

 

「どうして?」

 

 真っ直ぐな瞳で見つめる彼女に、君が深い思考の海にはまってしまったことを感じる。

 ああ、そんな質問なんて、させなければよかった。

 

「夜」

 

「……朝……」

 

 そっと名を呼べば、君はぼんやりとした視線を僕に向けた。

 

(思い出さないで、お願いだから) 

(……それが僕の、エゴだとしても)

 

「夜、大丈夫? ごめんね……何か聞いちゃダメなこと聞いちゃったかな……」

 

 少女が申し訳なさそうに君に謝った。

 

「あ、いや……。別に、大丈夫だよ」

 

 我に返った君が、とても泣きそうな笑顔を、彼女に向けていた。

 

  +++

 

 シスターに貸してもらった部屋で、今日はもう眠ることになった。

 

「うわぁー……RPGみたいだー……」

 

「夜。電気消すよ」

 

 感嘆の声を漏らす君に、声をかける。

 ごうん、ごうん、と、遠くから風車の回る音だけが響いている。……静かな、夜だった。

 

「……朝、おやすみ」

 

 君が嬉しそうに、楽しそうに挨拶をするものだから、僕も釣られて返事をした。

 

「……おやすみ」

 

 

(このまま、こんな穏やかな日々が続けばいいのに)

 (そう祈るくらいは、赦されるだろう) 

 

 

 だけど、世界は、残酷だった。

 

 

 Reversed Act.02…それでも少年は、幸せを願った。