目を覚ましたとき、オレは知らない部屋にいた。
オッフェンドという街に連れてこられたのだと知ったのは、しばらくして部屋にやってきたきみから聞いた話で。
「……夜、あの……」
「……ひとりに、して」
何かを言いかけたきみを遮って、オレはそう告げる。
ごめん、ごめんなさい、オレは誰かに気にかけてもらえる存在じゃないから。
……思い出した過去が浮かんでは消えて、頭の中がごちゃごちゃする。
眠れなくて、怖くて、ここにいたくなくて……優しいきみの隣にいる資格なんて、きっとなくて。
短い書き置きだけ残して、オレは窓から飛び降りた。
二階の高さなんて怖くもない。 死ぬわけでもない。 ……学校の屋上から飛び降りたときですら、運悪く死ねなかったのだから。
「……さよなら、あさ」
どうかきみは、しあわせに。
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ふらふらとあてもなく歩く。 ここがどこかなんて、とっくにわからなかった。
目の前で、花が揺れる。
独り、だった。 ずっと、ずっとひとりだった。
たすけて、なんて言う資格もなくて。 だって、オレは……――
そっと屈んで、花に触れる。
そんなオレを嘲笑うかのように風が吹いて、花は、散っていった。
「……」
ああ、世界は、なんて残酷なのだろう。
ああ、世界は、なんて辛いのだろう。
「まるで、きみみたいだ」
自嘲気味に笑って、オレは歩き出す。
ぐらり、と反転する世界。 最後に見た空は、どこまでも青くて……――
「みんな、いなくなればいいのに」
心を覆った絶望に、身を堕とした。
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……誰かが近づいてくる気配に、ゆるゆると瞳を開ける。
ここは深層心理の海の中。 意識を失うようにここへ落ちてきたオレに、“誰か”が声をかけた。
『……憎いか? 世界が』
「……世界も……自分の存在すべても、憎いよ」
それは、黒だった。 真っ赤な瞳が特徴的な、黒い髪の男だった。
「……でも、もう、どうでもいい。 このまま眠りたい。 ……いなくなりたい」
呟いて蹲るオレに、男はすっと手を差し伸べる。
「……なに」
『お前に力を与えよう。 世界を破壊する、【魔王】の力だ』
「……ッ!!」
ぶっきらぼうに問いかけたオレの体に、むりやりなにかを入れる男。
……痛みなら慣れていた。 受けて当たり前だと思っていた。
(本当は、たすけてほしかった)
からだを、こころを、真っ黒な感情が支配していく。
「あ……ああ……ッ!!」
『解き放て、お前自身の憎悪を。 世界を壊す、“呪い”を……――』
憎い。 憎い。 赦せない。 赦さない。 きらい。 きらい。 壊したい。 しにたい。 いきたい。
たすけて、たすけて、たすけてたすけてたすけてたすけて……――
「……そう思う資格なんて、よるにはないのに」
……でも、どうしてだろう。 呼びたい名前なんて、たすけてほしい人なんて、いないはずなのに。
どうして……きみの名を、呼んでしまうのだろう……?
「……たすけて……あさ……」
真っ逆さまに、真っ暗闇に堕ちていく。
自分も、世界も、何もかも壊れてしまえばいいと……そう、願って……――
よるはもう、うごけないよ。
Reversed Act.13…少年は、闇に堕ちる。