Reversed Act.13


 目を覚ましたとき、オレは知らない部屋にいた。
 オッフェンドという街に連れてこられたのだと知ったのは、しばらくして部屋にやってきたきみから聞いた話で。

「……夜、あの……」

「……ひとりに、して」

 何かを言いかけたきみを遮って、オレはそう告げる。
 ごめん、ごめんなさい、オレは誰かに気にかけてもらえる存在じゃないから。

 ……思い出した過去が浮かんでは消えて、頭の中がごちゃごちゃする。
 眠れなくて、怖くて、ここにいたくなくて……優しいきみの隣にいる資格なんて、きっとなくて。
 短い書き置きだけ残して、オレは窓から飛び降りた。
 二階の高さなんて怖くもない。 死ぬわけでもない。 ……学校の屋上から飛び降りたときですら、運悪く死ねなかったのだから。

「……さよなら、あさ」

 どうかきみは、しあわせに。

 +++

 ふらふらとあてもなく歩く。 ここがどこかなんて、とっくにわからなかった。
 目の前で、花が揺れる。
 
 独り、だった。 ずっと、ずっとひとりだった。
 たすけて、なんて言う資格もなくて。 だって、オレよるは……――

 そっと屈んで、花に触れる。
 そんなオレを嘲笑うかのように風が吹いて、花は、散っていった。

「……」

 ああ、世界は、なんて残酷なのだろう。
 ああ、世界は、なんて辛いのだろう。

「まるで、きみみたいだ」

 自嘲気味に笑って、オレは歩き出す。
 ぐらり、と反転する世界。 最後に見た空は、どこまでも青くて……――

「みんな、いなくなればいいのに」

 心を覆った絶望に、身を堕とした。

 +++

 ……誰かが近づいてくる気配に、ゆるゆると瞳を開ける。
 ここは深層心理の海の中。 意識を失うようにここへ落ちてきたオレよるに、“誰か”が声をかけた。

『……憎いか? 世界が』

「……世界も……自分の存在すべても、憎いよ」

 それは、黒だった。 真っ赤な瞳が特徴的な、黒い髪の男だった。

「……でも、もう、どうでもいい。 このまま眠りたい。 ……いなくなりたい」

 呟いて蹲るオレよるに、男はすっと手を差し伸べる。

「……なに」

『お前に力を与えよう。 世界を破壊する、【魔王】の力だ』

「……ッ!!」

 ぶっきらぼうに問いかけたオレよるの体に、むりやりなにかを入れる男。
 ……痛みなら慣れていた。 受けて当たり前だと思っていた。

(本当は、たすけてほしかった)

 からだを、こころを、真っ黒な感情が支配していく。

「あ……ああ……ッ!!」

『解き放て、お前自身の憎悪を。 世界を壊す、“呪い”を……――』

 憎い。 憎い。 赦せない。 赦さない。 きらい。 きらい。 壊したい。 しにたい。 いきたい。
 たすけて、たすけて、たすけてたすけてたすけてたすけて……――

「……そう思う資格なんて、よるにはないのに」

 ……でも、どうしてだろう。 呼びたい名前なんて、たすけてほしい人なんて、いないはずなのに。
 どうして……きみの名を、呼んでしまうのだろう……?

「……たすけて……あさ……」

 真っ逆さまに、真っ暗闇に堕ちていく。
 自分も、世界も、何もかも壊れてしまえばいいと……そう、願って……――

 よるはもう、うごけないよ。


 Reversed Act.13…少年は、闇に堕ちる。