あんまりだ、と私は思った。
恋なんて、童話のように甘くない。苦くて、苦しいものだ。
幼い頃、心を惹かれていた童話たちは、あんなにキラキラと輝いていたというのに。
私の視線の先には、他の女性と笑う彼。
こんなに苦しいなら、恋なんてしたくなかったな。
こみ上げる嫉妬という名の感情を、ため息と共に吐き出した。
相棒であるはずの彼を好きだと自覚したのは、もう随分と前の話だ。
この感情を押し殺せば、いつも通り、彼の相棒として歩んでいける。
——そう、信じていたのに。
それでもなお、膨らみ続ける想い。
いつか破裂して、彼の何もかもを奪ってしまうのかもしれない。
心も、命も、何もかも。
(……なんてね)
ぬるくなった紅茶を飲み干せば、鬱々とした気分も少しは落ち着いた。
街角のカフェで、一人きり。
彼と見知らぬ少女は、楽しげに会話を弾ませている。
彼は明るくて人当たりがいいから、女性人気が高いようだ。多分、顔がいいのもあるだろう。
やれやれ、と首を振る。
モテる相棒を持つ私の身にもなってもらいたいものだ。
シンデレラは、ガラスの靴を落として王子の気を引いた。
人魚姫は、声を犠牲にして王子に会いに行った。
どちらもまあ、健気なことだ。
(……自分なら、どうするだろう)
恋なんてしたくなかった、と思ったはずなのに、巡らせた思考に苦笑いをひとつ。
そして考えて、考えて、行き着いたのは、結局“奪うこと”だった。
待ってるだけなんてらしくもない。気を引くなんて、以ての外。
この手で奪って、それでもだめなら泡になって消えてしまおう。人魚姫のように。
自身の手を銃の形にして、彼の心臓を狙う。
甘くて綺麗なハッピーエンドなんて、いらない。
「——覚悟しててよね、ソレイユ」
幼い頃に憧れた童話は、もうとっくに破り捨てたのだ。