住み慣れた故郷を離れ、僕は今日、旅に出る。
理由は色々とある。
辛い出来事から逃げるように旅立った親友を探すため、そして何より、自分自身にできる“何か”を探すため。
街の入口、大きな城門の前に立つ。
見送りはない。 誰にも何も告げずに、僕は行くのだから。
「……まずは王都を目指そうかな」
僕の面倒をよく見てくれた親友は、旅立つ寸前「困ったことがあれば王都を訪れるといい」と言っていた。
この国に生まれてからの17年間、そういえば王都には行ったことがなかった、というのもある。
……そもそも、故郷から出たことすらなかったわけだけれど。
風がそよぐ。 空はどこまでも澄んでいて、白い雲を流していく。
よし、と小さく気合いを入れ、眼前に広がる草原に、僕は足を踏み出した。
「みっくん」
ふと、聞き慣れた女の子の声が耳に届く。
振り向けば、黒い髪を風に遊ばせた着物姿の少女が、こちらを見ていた。
「……さっちゃん」
「……行くんですね」
淡々とした彼女の言葉に、僕はコクリと頷いて返す。
彼女は一度悲しげに目を伏せてから、柔らかに微笑んだ。
「寂しくなりますね……。 ……でも、それが貴方の決めた道ならば……私は止める術を持ちません」
リアに、よろしくお願いしますね。
そう言って、親友の名前を出した彼女には、何もかもお見通しなのだろう。
僕の旅立ちの理由も。 彼がこの街を去った理由も。
「……さっちゃんも、お元気で」
“不死者”である彼女には、残酷な挨拶かもしれない。
それでも彼女は笑って、ええ、と手を振った。
「……たまには帰ってきてくださいね。
私、この街で待ってますから……ずっと、ずっと、何年でも、何十年でも……みっくんとリアのこと、待ってますから……!!」
泣き出しそうな声音の少女に、もちろん、と答えて手を振り返す。
絶対ですよ。 そんな彼女との約束を背に、僕はいよいよ歩き出した。
これは最初の一歩。 小さいけれど、大きな一歩。
(リアくん、この旅の果てに、君との再会を夢見て……――)
……それは、この星を覆うとある未来に繋がるお話。
けれどそれはまた、別のお話。