この夜を越えて、静寂。

空を往く鳥


 それは、遠い遠い昔の話。

 

 両手を引かれる。 早く、早くと急かす二人の笑い声。

 強い風。 着いたよ、と告げられ、目隠しを外す。

 

 ……視界に映る、蒼い空。 流れ行く雲。 そして、空を往くたくさんのワタリドリ。

 

『誕生日おめでとう』

 

 ……なんて、二人が笑うから。 嬉しくて、幸福で……――

 

 

 +++

 

 

「どこに行くんだ?」

 

「それは秘密。 もうちょっとだよ」

 

 旅の途中の休憩中。 ふと、相棒であるソカルがふらふらとどこかへと行った。

 そしてしばらくして戻ってくるなり、「ヒア、ちょっとこっち来て」なんて言うものだから、オレは彼に手を引かれるまま仲間たちの元を離れることになった。

 仲間たちは行ってらっしゃい、と言わんばかりに手を振っていて、ますます何が何だか分からない。

 

「もうちょっとって……だって、もう結構歩いたぞ?」

 

 日が暮れるまでに仲間たちの元へと帰れるのだろうか、と心配になりながら、高い位置にある太陽を見上げた。

 辺りは木々や草花だけで、道はゆっくりとした坂になっている。

 ……と、突然相棒が歩みを止めた。 急に止まった彼に、慣性でぶつかりそうになりながらもなんとか踏み止まる。

 

「っとと、急に止まるなよな!」

 

「……ごめん。 ……その、ヒアに迷惑かけてるのは分かるし……ほんとに、嫌だったら……やっぱり……」

 

 唐突にしょんぼりとしだした相棒に、深くため息を吐いた。

 伝わってきた後悔や罪悪感という感情の中に、“それでも、どうしても”、といった気持ちを見つける。

 

「……別に、迷惑とかじゃないって。 だいたい、ここまで来て引き返すのもモヤモヤするし!」

 

 だから早く行こうぜ、と彼を促せば、パッと明るい表情になって頷いてくれた。

 

 

 そうしてもうしばらく歩くと、開けた場所に出た。

 強い風、蒼い空、流れる白い雲。 そして……。

 

「……ワタリドリ……」

 

 空を往く、たくさんのワタリドリ。

 

「誕生日、おめでとう」

 

 彼の声に、ハッと振り返る。 嬉しそうな顔でソカルもまた、空を見上げていた。

 

「……あの時と同じだな、アメリはいないけど」

 

「……お、覚えてたの!?」

 

「たまたまだよ。 ……ありがとう、ソカル」

 

 遠い遠い過去と似た景色。 幼なじみだった少女はいないけれど……生まれ変わってもまた、そばにいてくれる相棒の存在が嬉しくて……幸福で。

 

『生まれてきて、よかった』

 

 ……それは、前世の『オレ』が告げた言葉。 そして、『今』のオレが出した答えだった。

 

 鳥たちがどこまでも広がる空へ飛んでいく。

 その光景は、きっと、ずっと、オレの中に残るのだろう。

 

 もう二度と、忘れないように。

 

 

 おわり。