この夜を越えて、静寂。

追憶の星空


「思えば、ずいぶん遠くまで来たな」

 

 王城のテラスから城下町を眺めながら、オレはぽつりと呟いた。

 冷たい夜風に、国旗と思わしき旗が揺られている。

 

「そうだね。 ……正直、どうなることかと思ったけど……」

 

 隣で星空を見上げていた相棒……ソカルが、囁くように同意した。

 

「……ほんと、いきなりお前にこの異世界に連れて来られてさ。

 【神】と戦えとか、“双騎士(ナイト)”として契約しろとか言われてさ……」

 

「……我ながら説明不足だったとは思うよ……」

 

 ごめんね、と謝る彼は、しかしどこか楽しそうに微笑んでいて。

 まあ怒ってはいないし、とオレは話を続ける。

 

「それで、ナヅキとフィリ、リブラに出逢って。 イビアさんや黒翼も仲間になってくれて。

 たくさんの【神】と戦って、倒したりして」

 

 最初はソカルとオレのふたりだけだった旅も、同じ使命を背負った仲間や先代の“双騎士”も加わって、ずいぶんと賑やかになった。

 

「オレは、前世の記憶を取り戻すことになって」

 

 その言葉に、ソカルがぎゅっと手を握る。 けれどすぐに頭を振って、そうだね、と頷いてくれる。

 

「それから、深雪先輩とソレイユ先輩、朝先輩っていう新しい先代“双騎士”や【神殺し(ディーサイド)】ディアナが仲間に加わって」

 

 その先代“双騎士”の一人、朝先輩とは色々とあったけれど……今はなんとか和解ができた。

 他の先代たちとも、仲良くできている……はずだ。

 

「それで……グラウミールでは、天使たちが街を襲ってて……」

 

「天使たちは何とか退けたけど……街の人たちが犠牲になったね。

 それでも、僕たちは進まなくちゃいけなくて……」

 

「……うん。 ……それで、グラウミール領主から女王への手紙を預かって……王都を目指すことになった」

 

 グラウミールという街では、自分たちの戦いの結果を突き付けられた。

 ……けれど、オレたちはオレたちの使命を果たすしかなかった。

 『犠牲を越えてなお、進み続けなさい』と言ってくれたグラウミール領主に報いるためにも。

 

「王都へ向かう途中、【愛神】アーディとの戦いの途中……【世界樹(ユグドラシル)】とやらの夜先輩が目覚めて」

 

 夜先輩はずっとオレの精神に住み着いていて、ピンチのときには助けてくれていた。

 それが、5年という長い眠りから覚めて……正式に、オレたちの仲間に加わったのだ。

 

「その後、港町ではマユカさんっていう人も仲間になって。 港町から船に乗って……やっと、この王都まで来た」

 

 もっと色々なことがあったけれど、総じて言えるのは「大変だった」ということだけ。

 ……それでも、戦って……この世界を、守らなくてはいけないのだから。

 

「……風、寒いね。 そろそろ戻ろうか」

 

「だな。 ……なあ、ソカル」

 

 先ほどよりも一段と冷えた夜風に、ソカルが身震いする。

 それをもうちょっとだけ引き止めて、オレは彼に笑いかけた。

 

「ありがとうな、ずっとそばにいてくれて。

 ……これからも、よろしく!」

 

 その言葉と共に差し出した手を、相棒はきょとんと見つめて……それからにっこりと笑って、握り返してくれた。

 

「当たり前でしょ?」

 

 思い出した前世から、ずっとそばにいてくれる相棒。

 オレのことを知っても、変わらずにいてくれる大切な仲間たち。

 

 この温かな居場所を、絶対に守り抜く。

 

 夜空を流れる一筋の星に、オレは強く決意したのだった。