Night×Knights

Chapter16. 継承~受け継ぐ力~


『今から君たち“双騎士ナイト”を、“力継人アヴィレセクター”の元へ送るよ』

 僕たちの前に現れた女神……アズール・ローゼリア様は、突如としてそう言った。

「アヴィレ……セクター……?」

 聞き覚えのない単語に、僕たちは首を傾げる。

『そう。君たちに新たな力を与えてくれる存在。
 まあ行ってみればわかるよ』

 アズール様がにこりと笑ったその瞬間、眩い光が辺りを包み込む。

「――……ッ!?」

 その光に反射的に目を瞑り……再び開いた時には、その場には僕とアズール様しかいなかった。
 更に僕たちは最初にいた洞窟の中ではなく、一面が青空に包まれた空間に立っていた。

「み……みんなは……!?」

『それぞれに力を与えてくれる“力継人アヴィレセクター”の元へ送ったの』

 驚愕して辺りを見回しながら呟いた言葉に、アズール様が答えてくれる。

「それぞれの……“アヴィレセクター”……」

『そう。“力継人アヴィレセクター”……それはこことは別の世界にいる、強い力の持ち主たち。
 その魂の一部を私の力で、この世界に“影”として呼んだ者たちの総称。……君たちに、新たな力を渡すために』

 アズール様の説明に、僕は先ほどまでみんながいた辺りを見つめた。

「新たな……力……」

 +++

 羽崇うたか 深雪ミユキは、白い部屋で目が覚めた。

「こ……こ、は?」

 確かアズールという少女に出逢って、眩しい光に包まれて……気がついたら、ここにいた。

「ソレイユ……? 朝くん?」

 きょろきょろと辺りを見回すが誰もいない。途方に暮れる深雪だったが、不意に背後から声が聞こえた。

『……ようこそ、“忌み嫌われた旋律の間”へ』

「……あなたは……?」

 振り向いた先にいたのは、肩ほどまでの長さがある黄土色の髪の少年だった。

『僕はルーティア。あなたの“力継人アヴィレセクター”です』

「私の……“アヴィレセクター”……?」

 ルーティア、と名乗った少年の言葉に、深雪はきょとんとする。

『はい。……あなたは、音楽の才能に恵まれている』

「……っ」

『けれどあなたはそれを良しとしない。なぜです?』

 淡々と問うルーティアに、深雪は訝しげに答える。

「それは……自分の未来を勝手に決められてしまうから……」

『そうですか。本来ならここで、「音楽をしたくても出来ない人もいるんだ」なんて言うのでしょうが……。
 そんなこと言われても、結局他人は他人、ですものね』

 ふふ、と笑いながら、彼は深雪に手を伸ばす。

『ですが、深雪さん。もし……その力で、誰かを救ったり守ったりすることができる、としたら……どうしますか?』

「……え……?」

『例えば、蛹海さなうみ ヨルさん……でしたっけ?
 ……彼を救うことが、できるとしたら?』

「……なぜ……夜くんのことを?」

 深雪の疑問に、ルーティアは真っ直ぐな瞳で答えた。
 深い深い、赤紫色の瞳が、深雪を映している。

『僕は、“力継人アヴィレセクター”ですから』

「“力継人アヴィレセクター”……」

『守りたいですか? 救いたいですか?
 僕の力を受け取れば、あなたはあなたの力……“歌の力”で、それが出来るようになります』

「私の……力……」

 ルーティアの……【音楽神】の顔を見つめ、深雪は考える。

 ――忌み嫌っていた、私の才能。
 もし、それで誰かを救えるのなら。
 ……彼を……夜くんを、救えるのなら。
 この歌声が……仲間たちの役に立てるのであれば。

 私、は――

「――……わかりました。あなたの力を、受け取ります」

 差し伸ばされた手を、歌唄いは掴んだ。

 +++

『ようこそ、“神に護られし力の間”へ』

 ソレイユ・ソルアは、目の前に現れた青年に目を見開いた。

「だ、誰だお前! それにここは……? 深雪たちは!?」

『落ち着けよ。……オレはイゼレア。
 お前の“力継人アヴィレセクター”だ』

 イゼレア、と名乗った青年は茶髪で赤紫のメッシュが入った髪を揺らして笑った。

「アヴィレセクター……」

『そうだ。さて……本題だが。お前……堕天使だそうだな?』

「……っ!! ……まあ、な」

 何もかも見透かしたかのようなその暗紫色の瞳に、ソレイユは一瞬息が詰まるも何とか頷く。

 ――彼の指摘通り、ソレイユは“堕天使”と呼ばれる存在だった
 神々が住まう世界……“天界”から追放された、堕ちた天使。
 パートナーである深雪にしか告げていない己の正体を、目の前の存在はあっさりも見破ったのだ。

『オレは元々神に仕える聖職者でもあるんだが……それが神に背いた堕天使に力を与えるなんてな。皮肉にも程がある。
 ……だから』

 は、と苦笑をこぼして、イゼレアはソレイユに向かって拳を突き出した。
 途端、彼の手には光を帯びた白い弓が現れる。

「……やる気か?」

『ああ。お前がオレのチカラに相応しいか……試させてもらう!』

 言うや否や、イゼレアは弓を引いた。
 番えられた魔力の矢の雨が、ソレイユに降り注ぐ。

「ああもう、戦うとか聞いてないっての!」

 それを避けながら、あるいは愛用の銃で撃ち落としながら、ソレイユは悪態をつく。

『少しはやるようだな』

「当然だ! オレは……深雪のパートナーなんだからな!」

 感心したようなイゼレアにそう返し、彼から距離を取るソレイユ。

(そうだ。オレは深雪のパートナー。こんなところで、もたもたしている暇はない!)

 すっと魔法銃を構え、彼は高らかに詠唱した。

「――“堕ちた光よ、天の意思を放て!! 『ゾルド・アレイ』”!!」

 銃に込められた魔力が、光の弾と化してイゼレアへと放たれる。
 当然それを弓で撃ち落とすイゼレアだったが……その隙を突き、ソレイユは彼へと近づいた。

「終わりだ、“アヴィレセクター”!」

 心臓部分に突きつけられた、“堕天使”の銃口。
 それを確認し、イゼレアは武器を仕舞い両手を上げ、降参の意を示した。

『……見事だ。お前の覚悟、お前の実力……確かに見届けた』

「そりゃどーも」

 ソレイユもまた銃を彼から離し、はあ、と息を吐く。

「……これ、他の連中も戦ってるのか?」

『さてな。好戦的な奴らは力試しをしているかもしれないが』

 嫌そうに眉を顰めるソレイユに対し、しれっと言い放つイゼレア。
 そうして彼は、何気ない動作でソレイユへと手を差し伸べた。

「……なんだ?」

『……チカラだ、受け取れ。
 【神】に……“天界”に背いたお前に、【神】……【創造神】アズールからの贈り物。
 堕天使でありながら本来の力が使えるようになる。
 具体的には、【神】を討伐できるチカラだな』

「【神】の討伐って……そんなもの」

『救いたくはないのか?』

 必要ない、と言いかけたソレイユの言葉を遮り、イゼレアは彼を正面から見つめる。

『救たくはないのか? 護りたくはないのか? お前の仲間を。……大切な存在を』

「……!」

 【神】を討伐するチカラで、救う。
 ……それは、つまり――

(今の、夜には……!)

『救いたいのなら、護りたいのなら、手を取れ!
 このチカラを受け取れ、ソレイユ・ソルア!』

 差し出された無骨な手を、ソレイユはじっと見た。

「……わかったよ。受け取ってやる!」

 やがてその手を握り返すと、イゼレア……【聖職者】は、ふわりと笑った。

 ――気をつけろ。蛹海 さなうみヨルには、……――

 +++

 ――揺るがぬ決意と誓いの間――

 地を蹴る音が、白を基調とした王城の謁見の間を模した空間に響き渡る。
 次いで空気を裂く、肌がぶつかる鈍い音。
 “アヴィレセクター”の蹴り技を、青年が腕で受け止めたのだ。


『護る強さが欲しいでしょう?』

 そう言って手を差し出したのは、緑髪の少年……“アヴィレセクター”、リシェア。
 その少年と対峙するカイゼル・ビョルネは、彼を一瞥し眉を顰めた。

「……殴ってくる気満々で言われてもな」

『……なるほど。あはは、気づくとはさすがだね』

 僕もまだまだだなあ、と軽やかに笑うリシェアに、ため息を吐くカイゼル。

「来いよ。力試しって言うなら付き合ってやる」

『――それじゃ、遠慮なく!』

 青年の言葉に頷いた少年は、駆け出しその細脚で蹴り上げたのだった。


 殴っては受け止められ、蹴られては受け止め。
 そんな攻防戦がしばらく続いた後、カイゼルは嫌そうに舌打ちをし、彼と距離を取る。

『ん、魔法詠唱かな?』

「生憎、魔術は苦手でな」

 首を傾げるリシェアに、カイゼルは吐き捨てる。
 小柄な見た目に反して重たい一撃を放つ“アヴィレセクター”。
 けれど、これ以上時間をかけるわけにもいかない。
 この空間が外と同じ時間の流れかはわからないが……どうあれ、仲間・・が待っているのだ。

(……一人で生きていくつもり、だったんだがな)

 自分の周りにはいつも桜爛がいて、ルーを拾い、そうして沢山の“仲間”に巡り会えた。

(それもまあ……――悪くねえ)

 薄く笑み、腰を落とすカイゼル。
 そしてそのまま走り出し、勢い良く拳を突き出した。

『そんなもの!!』

 軽やかに避けるリシェアだが、体を捻ったカイゼルの長脚が、回し蹴りの要領で彼に命中する。

『――ッ!!』

 壁まで吹き飛ばされたリシェアは、よろよろと立ち上がり、深く息を吐いた。

『……うーん、リーチの差はどうにもならないか。
 あはは、君すごいねえ。うん、よし! 試験は合格ってことで!』

「軽いな……」

 今度はころころ笑うリシェアに、呆れたように肩を落としたカイゼル。
 それにすら楽しげに微笑んで、“アヴィレセクター”は再びその手を差し出した。

『はい。ほら、受け取って。今度は殴ったりしないからさ。
 魔術が苦手な君でも、武術に魔力を纏わせることができるようになるよ』

 そう言われ、しばし疑うような目で彼の手を見つめていたカイゼルだが……やがて観念したかのように、自身の手を突き出した。

「……“アヴィレセクター”、か……。その力、使ってやるよ」

『うんうん。君なら、僕の力を正しく使ってくれると信じてるよ』

 満面の笑顔で信頼を口にしたリシェア……【聖王】に、カイゼルも笑みを返した。

 ――……お願い、君の仲間に宿ったあの闇を……どうか……――

 +++

 ――世界を見守る蒼穹の間――

『――貴方はまだ、【太陽神】としては完全に覚醒していません』

「……うん、わかってる」

 ルー・トゥアハ・デ・ダナーンは、背なに純白の羽を生やした金髪の少年……ミストリアと向き合っていた。

『ですが、貴方は僕の力を受け取ることが出来ます。
 ……いえ。受け取らなければ、貴方は完全な【太陽神】に……なれない』

「……ぼくに拒否権はないってこと?」

 じっと自身を見つめるルーの言葉にミストリアは「はい」と相槌を打ち、その白い手を差し出した。

『貴方の手で、力で、貴方は貴方の友人を救わなければならない。
 貴方が、みんなを“導く”のです』

 そう言った彼は、そっとその青い瞳を伏せる。

『……元の世界の僕は、大切な友人を救えませんでした。
 その後悔は、こうして“僕”の魂に刻まれている。
 ……貴方に、同じ思いをしてほしくはないのです』

 震える声に滲み出る、後悔の念。
 他者の感情がわかるルーは、それを強く感じ取る。

(……“守れなかった”。“救えなかった”。……そんな感情ココロの痛み。
 ぼくも……仲間みんなに、そんな想い、してほしくない)

 左右異色の瞳で、純白の天使を見つめる。
 それから彼は、「うん」と頷いた。

「……わかった。きみのチカラ、受け取るよ」

 【太陽神】ルーは、ミストリア……【聖天使】の手を握ったのだった。

 +++

 ――他者を守る導者の間――

『過去をいつまでも引きずるな、とは言わないが』

 イビア・レイル・フィレーネの“力継人アヴィレセクター”は、くすんだ金髪の青年……ハスレイアだった。

『今のままでは、大事なものを見失うぞ』

「……お前に……何がわかる……!」

 冷めた目で自身を見るハスレイアに、イビアはギリ、と歯を噛み締める。
 そんな彼に、はあ、とため息を吐くハスレイア。

『お前……過去の痛みを活かして、今度は仲間を守るために強くなりたいんじゃなかったのか?』

 ハスレイアがそう言うと、イビアはぐっと押し黙ってしまった。

「……わかってる。わかってる、けど。
 ……今のオレには……大事な人が、いる。こんなオレを怒ってくれて、助けてくれる……そんな相棒が。
 ……でも――」

 イビアの脳裏に浮かぶのは、大切な少女の亡骸。
 記憶の中の彼女は、いつから笑ってくれなくなったのだろう……?

『……過去ばかり見ていても何も始まらない。
 元の世界のオレたちも……そうして、過ちを犯した。……だから』

 そこで一度区切ると、彼は手をイビアへ向けた。

『オレの力を受け取れ、イビア・レイル・フィレーネ。
 守りたいのなら。強くなりたいのなら。……そして、過去を超えるために』

「……オレ、は」

(……守れるのだろうか、黒翼を、夜を、仲間たちを。
 ……こんな、今もなお復讐を諦めきれない、オレでも)

『……何も、復讐のために戦うことが悪だとは言わない。オレたちも、同じだった。
 ……だが、だからこそ……大切なものが何かを理解し、いざという時に何を優先するか。それが、重要だ』

「大切なもの……」

 思い出すのは、黒翼の淡い微笑。怒った顔。無表情気味な彼の、そんな珍しい感情の発露。
 イビアは、無意識にハスレイア……【聖導者】の手を取った。

 +++

『……よ。ようこそ、“蔑まれたつるぎの間”へ』

「……お前、は?」

 黒翼は、長い漆黒の髪の少年が佇むだけの、
何もない静かな空間にいた。
 暖かいけれどどこか寂しさを感じさせる場所だ、と内心で思う。

『オレはお前の“力継人アヴィレセクター”、ユイシュアだ』

「……“アヴィレセクター”」

『ああ。お前に“守る力”を与える存在』

 ユイシュア、と名乗った少年は、次の瞬間黒翼へと剣を向けた。

「……戦う、のか」

『ああ、一応な。……信じさせてくれ、お前の……覚悟を!』

 言うや否や地を蹴り駆け出した“アヴィレセクター”に、黒翼も得物を構えて応戦する。
 ガキン、と金属同士がぶつかり合う音が、空間に響いた。

『――はあッ!!』

 一度黒翼から離れたユイシュアだが、すぐさま接近し剣を振り下ろす。
 黒翼はそれを飛び上がることで回避し、天井へと足をつけた。

『――なるほど。人外……吸血鬼であるが故の身体能力か。
 ……だが』

 蝙蝠のように天井にぶら下がる黒翼を一瞥し、ユイシュアは足元に魔法陣を描く。

『魔法は、届く!
 ――“疾風を纏いし剣よ、爆ぜろ!! 『爆風炎連剣ばくふうえんれんけん』”!!』

 風を纏った炎の剣が、黒翼へと襲いかかる。
 けれど吸血鬼は表情ひとつ変えずに、その手に持った刀を構え直す。
 そして天井を蹴り、落下するようにユイシュアへと向かう黒翼。
 その背に生えた黒い翼が、落下を加速させる。
 彼は振り翳した刀を、詠唱と共に叩きつけた。

「――“静寂を切り裂く翼よ、我が剣に力を! 『翔炎剣しょうえんけん』”!!」

 炎の魔法がぶつかり合う。拮抗した後、霧散する魔力。
 熱気だけが残った戦場で、翼を羽ばたかせた黒翼が次の一手を打った。

「――“『花焔斬かえんざん』”!!」

 振り下ろされた剣撃が、ユイシュアの剣を弾き飛ばす。
 そのまま黒翼は、“アヴィレセクター”の首元に刀を突きつけた。

「……終わりだ」

『……だな。うん、流石だ。降参だよ』

 短く告げた黒翼に頷いて、ユイシュアは両手を上げる。
 それからふわりと笑んで、彼は片手を黒翼へと差し出した。

『受け取れ。オレのチカラだ』

「…………」

 少し考えてから、黒翼はそっとその冷たい手に触れた。
 ……なぜか、いなくなってしまった彼の……夜の掌に似ている気がする。

「受け取る。……皆を、守りたいから」

 黒翼のその言葉にユイシュアは満足したように頷いたが、不意に真面目な……それでいて、痛みを堪えたような表情に変わる。

『……ごめん、黒翼』

「……ユイシュア?」

『……ごめん……!
 かつて……オレに宿っていた“闇”が……【魔王】のカケラが、お前の仲間……蛹海さなうみ ヨルに、取り憑いて……!』

「夜、に……魔王が……!?」

 その告白に驚く黒翼を見て、ユイシュアは深く頭を下げ、謝罪を口にした。

『ごめん……オレが、オレたちがうっかりしていた……。
 彼に宿るなんて、予想くらい出来たのに。【魔王】は世界を超えるくらい出来ると、知っていたのに――』

 震える声で吐き出された懺悔に、黒翼はぎゅっと手を握り締める。

「じゃあ……朝が言っていた『夜に狂気がある』って……」

 黒翼の問いに、ユイシュアは再度ごめん、と呟いて、黒い瞳を伏せた。

『きっと、【魔王】のせいだ。
 ……【魔王】は、オレたちが討伐した。でも、完全に死んでいなかった。
 その結果が……これだ。本当に、謝っても許されることじゃない』

「……夜」

 思い出す、冷たい彼の視線。赤く染まった瞳。
 それらが全て、【魔王】によるものなら。……【魔王】に乗っ取られたからだと言うのなら。

『オレがそっちの世界に行けたら良かったんだけど……色々あって、オレは世界を超えられない。
 だから……お前に、託すしかない。
 頼む、あの“闇”を倒して……お前の友達を、救ってやってほしい』

 あの“闇”の恐ろしさは、オレが一番わかってるから。
 泣き出しそうな声音でそう言った彼に、黒翼は承諾の意を示す。

「……わかった。夜は、絶対に助ける」

 その力強い言葉に安心したのか、ユイシュア……【魔剣士】は淡く微笑んだ。

 +++

『そろそろ時間ね』

 アズール様は何もない空間を見つめ、唐突に口を開いた。
 まだみんなと別れてからそれほどの時間は経っていないけれど、彼らは彼らのアヴィレセクター……異世界の力ある存在を写した者たちから、きちんと力を受け取ったのだと女神は笑った。

『朝、君にも力を与えるよ』

「……僕にも、力……?」

 僕は訝しげな表情を浮かべて首を傾げる。

『そう。君の“アヴィレセクター”は、私』

「アズール様が……僕の“アヴィレセクター”?」

『うん。私の力を受け取れば、君の生まれ持った属性は変わってしまうけれど……君の大切な人を救うには、きっと必要な力だから』

 彼女は僕に優しく笑いかける。その薔薇色のまなざしに、僕は君の姿を思い浮かべた。

「――……夜」

 君は今、どこで何をしているのだろうか。……泣いていないだろうか。苦しんで……いないだろうか……。

『受け取って、朝。
 【創造神わたし】が作り出した“悪魔”……“神造生命”よ』

「……うん」

 僕の“正体・・”を口にする女神に、頷く。
 “神造生命”。ヒトならざる者。それでも、僕は。

(夜と共に在ることを、選んだ。――だから)

 この力で、夜。君を救えるのなら……――

 晴れ渡った空に、薔薇の花びらが舞う。
 そんな美しい景色の中、僕はアズール様の手を取る。
 途端に抜け落ちていく、この魂に刻まれた風の魔術属性。
 同時に僕という入れ物・・・・・・・に入ってくる、アズール様に似たチカラ・・・・・・・・・・・
 ぐらり、と目眩がする。
 それでもこの肉体は彼女に造られたものだから、きっと耐えられるのだろう。

 ――どうか、忘れないで。君たちの未来は、希望に満ちていることを――

 遠のく意識の中で、僕はあたたかなアズール様の声を、聞いた。


 Chapter16.Fin.

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