幻想龍、神剣と少年。

第一夜 神を殺すモノ


 名前もない、親もいない

 僕はひとりぼっちだった

 村人たちは僕を蔑むけれど

 たったひとり 君だけが

 僕のそばにいてくれた

 

「名前がないならつけてあげる」

 そう軽やかに笑う君

 とある夏の日、ふたりだけのヒミツ

 風鈴の音、蝉しぐれ

 ひまわりが揺れていた

 

 大人たちは嘲笑うんだ

「神を殺す者、神に仇なす者」

 生まれ持ってしまった僕の使命を

 穢らわしいと 突き放した

 

 

 名前がついた、ひとりの僕

 笑う君が 眩しくて

「どうして僕に関わるの?」

 君が傷つくだけなのに

 

 年の近い子どもたちですら

 僕には近づかないんだ

 「神を殺す者」なんて、望んだわけじゃないのにさ

 夕焼けの小道、石ころ蹴っ飛ばす

 君の悲鳴が、耳を劈いた 

 

 

 燃え盛る炎 君に届く罵声 ねえ

 どうして僕と関わったの

 こんな結末 分かっていたでしょう?

 「お前のせいで彼女は」なんて

 言われなくてもわかってるよ

 わかってるよ!!

 

 

 君と出逢わなければよかったのかな

 君をキライになれればよかったのにな

 君が話しかけなければよかったんだ

 僕は 生まれてこなければ よかったのかな……?

 

 

「そんなこと、ないわ、絶対に」

 

 

 轟々と 空高く立ち上る 真っ赤な炎に抱かれても

 君は変わらず微笑んで 僕を見つめていた

 後悔してないの? こわくないの?

 どうして……どうして……?

 

 君が叫んだ 喉を肺を炎に焼かれながらも

「この村から逃げて」

「私のことなんて忘れて生きて」

 ありったけの声で、叫んだんだ

 

 

 教会に隠されていた 【神剣】を手に取り

 走り出した 焼け落ちる君を背に

 追いかける村人たちを掻い潜り

 村の外への出た僕を包んだのは

 

 

 ああ、悲しいくらいに綺麗な、夜空だった――

 

 

「僕が生まれたことは、果たして幸せなことなのだろうか……?」