幻想龍、神剣と少年。

幕間 四 雨音レクイエム


(たすけて、ください)

 

 

 ああ、雨が降り出しそうだ。

 

 呟きながら僕は駆けていく。

 人混みの中を、君の思い出を消し去るように。

 

 あの日君は、二人の世界からいなくなった。

 廻る季節の中から、飛び出してしまったのだ。

 

 

(ねえ、君はこの小さな世界から消えることが出来て……幸せですか?)

 

 

 ……僕はあの世界で、終わらない夢を見続けていたかった。

 君と二人、笑い合う夢を……見続けていたかったんだよ。

 どんなに生を嘆いても、どんなに愛を嘆いても、どんなに君を憂いても。

 

 君にこの声が届くことなんて、なかったのかな。

 

 

 こうなる未来なんて、はじめからわかっていたのに。

 希望を捨てきれなかったのは、自分の幼さと弱さ故。

 

『ボクを殺して、ディアナ』

 

 ああ、雨が降り始めたよ。 思考回路が絡まってしまう。

 ああ、雨音に混ざって、君の声が聞こえた気がした。

 

 

(君はもう、いないのに)

 

 

 どうして。

 

「もう一度逢えたら」なんてバカっぽい言葉を繰り返しているよ。

「もう一度逢えたら」なんて、君はきっと嫌がるのに、ねえ。

 

 

 どうして。

 

 僕は泣いているの。 雨が泣いているの。

 君は泣いていたの。 あの世界の隅っこで?

 

 

 泣いて、壊れて、消えていったのはきっと。

 

 

「リシュア……僕は、もう」

 

 雨に濡れた髪が重い。 背負う君の命が……重い。

 

 

(もう誰の命も、奪いたくないよ……っ!!)

 

 

 言えない言の葉が……くるしい。

 吐いた息は冷たくて、呼吸ができなくなる。

 

 使命も、責任も、ココロでさえも。

 全て捨ててしまえたら。 ……失くして、しまえたら。

 

 たとえ、僕が《僕》でなくなるとしても。

 

 

 

 ああ……赦してください。

 君は僕が殺したんだ、紛れもなく、この僕が。

 この手で、大切な……親友を。

 

 殺したんだ、殺したんだ、殺したんだ、この手が!!

 

 そんな言えなかった叫びを繰り返す僕の心ごと解き放てば……この剣で、僕をころしてくれますか?

 

 

(そうするしかなかった。 もう、それ以外に方法はなかった)

 

 

 わかってる。 わかっているんだ。

 きっと君は救われた。 死はきみにとっての救済だった。

 頭では、わかっている……のに。

 

 

 世界を喰らう【龍】となってしまった僕の親友。

 僕は【神殺し】としての定めに従い、彼を……【龍神】リシュアを、この手で……。

 

 

 消して、壊れて、壊してください。

 そうして君の元へ逝かせてよ、僕の心ごと。

 傷は深く、深く、深く刻まれて。 このままこの身を切り裂いてほしい。 もう二度と立ち上がれなくなるくらいに。

 

 壊して、赦して、壊れて、どうか、お願い。

 もう、雨がやまないでいる僕の心ごと、解き放つから……君の命を奪ったこの剣で、僕をころしてください。

 

 

 この【神剣】で、僕をころしてください。