(たすけて、ください)
ああ、雨が降り出しそうだ。
呟きながら僕は駆けていく。
人混みの中を、君の思い出を消し去るように。
あの日君は、二人の世界からいなくなった。
廻る季節の中から、飛び出してしまったのだ。
(ねえ、君はこの小さな世界から消えることが出来て……幸せですか?)
……僕はあの世界で、終わらない夢を見続けていたかった。
君と二人、笑い合う夢を……見続けていたかったんだよ。
どんなに生を嘆いても、どんなに愛を嘆いても、どんなに君を憂いても。
君にこの声が届くことなんて、なかったのかな。
こうなる未来なんて、はじめからわかっていたのに。
希望を捨てきれなかったのは、自分の幼さと弱さ故。
『ボクを殺して、ディアナ』
ああ、雨が降り始めたよ。 思考回路が絡まってしまう。
ああ、雨音に混ざって、君の声が聞こえた気がした。
(君はもう、いないのに)
どうして。
「もう一度逢えたら」なんてバカっぽい言葉を繰り返しているよ。
「もう一度逢えたら」なんて、君はきっと嫌がるのに、ねえ。
どうして。
僕は泣いているの。 雨が泣いているの。
君は泣いていたの。 あの世界の隅っこで?
泣いて、壊れて、消えていったのはきっと。
「リシュア……僕は、もう」
雨に濡れた髪が重い。 背負う君の命が……重い。
(もう誰の命も、奪いたくないよ……っ!!)
言えない言の葉が……くるしい。
吐いた息は冷たくて、呼吸ができなくなる。
使命も、責任も、ココロでさえも。
全て捨ててしまえたら。 ……失くして、しまえたら。
たとえ、僕が《僕》でなくなるとしても。
ああ……赦してください。
君は僕が殺したんだ、紛れもなく、この僕が。
この手で、大切な……親友を。
殺したんだ、殺したんだ、殺したんだ、この手が!!
そんな言えなかった叫びを繰り返す僕の心ごと解き放てば……この剣で、僕をころしてくれますか?
(そうするしかなかった。 もう、それ以外に方法はなかった)
わかってる。 わかっているんだ。
きっと君は救われた。 死はきみにとっての救済だった。
頭では、わかっている……のに。
世界を喰らう【龍】となってしまった僕の親友。
僕は【神殺し】としての定めに従い、彼を……【龍神】リシュアを、この手で……。
消して、壊れて、壊してください。
そうして君の元へ逝かせてよ、僕の心ごと。
傷は深く、深く、深く刻まれて。 このままこの身を切り裂いてほしい。 もう二度と立ち上がれなくなるくらいに。
壊して、赦して、壊れて、どうか、お願い。
もう、雨がやまないでいる僕の心ごと、解き放つから……君の命を奪ったこの剣で、僕をころしてください。
この【神剣】で、僕をころしてください。